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ヒーローショーへ行こう

このところ大量の下書きに手も付けず、noteを徘徊している時間が増えた。

書く気にならないと記事は書けないし、待ってる人がいるわけではないから急ぐ必要もない。
それに、徘徊しているとクリエイターさんの記事から書く気を貰えることがよくあるのだ。


果たして、一方的に敬愛しているライターさまヤスユキさんの記事を読み返していたら、そこに『書く気』が落ちていたのでこっそり拾って使わせて頂こうと思う。




私は学生のころ遊ぶ金欲しさにいろんなバイトをしたけれど、その中で最も長く続いたのが子供ショーのスタッフだ。

最近ではスーツアクターなどとカッコよく呼ばれたりもするが、実際は3Kのお手本みたいな労働環境だった。
それでも続いたのは日給がまあ良かったのと、土日祝日で都合のつく日だけ働ける、掛け持ち学生にはありがたいシステムだったから。

今回は子供ショーが如何いかに3Kなのかについて話してみたい。



まずはバイトの概要を超簡単に説明しよう。

子供ショーの種類は大きく2つに分けられる。
戦隊ものや仮面◯イダーなどのヒーローショーと、◯ンパンマンやちび◯子ちゃん等のメー作(アニメ作品)ショーである。
 
1チームは大体10人前後で、その多くが高校生や大学生のバイトだ。
キャストの他にPA(音響)とMCがいてチームに帯同する。
GWや年末年始の繁忙期は毎日10チーム以上が編成された。

熟練者はチームのチーフ兼ドライバーとなり、ハイエースに機材とメンバーを詰め込んで会社から地方各地へ散らばって行く。
新人のバイトがぎゅうぎゅうな座席の真ん中で何時間も揺られている様子は、まさにドナドナのようだ。

現地に着くとチーフは主催者と打合せし会場をチェックしておく。
多くがスーパーなどのイベント広場や駐車場だから、危険性の有無を確認しないといけない。

それから控室や目立たない場所で台本に合わせ動きや立回りのリハーサル。

キャストは練習会で事前に台本を読んでいる。
だけどヒーローショーの時はアクションシーンの殺陣を入れるので、覚えが悪い新人のバイトには先輩から怖ろしい指導がある。

開演30分前に主題歌を流しMCが呼び込み、会場に観客が集まり始める。
キャストはキャラクターに着替え、PAは音響機材と完パケメディアを最終チェック。

オンタイム。MCがステージ中央に走って行き
「皆さ~ん、こんにちは~!!」
どこかのM1王者なみに元気な声で挨拶したらショーが開演する。

ステージが終わるとキャラクターによる握手会とサイン入り色紙の即売会。
さっきまでステージで怪人や戦闘員をやってたキャストが、速攻で着替えて列の整理や色紙の手売りを始める。

最初のステージが終了。所要時間は約1時間。
基本的に1日2ステージなので、合間に昼食をとりながらチーフのダメ出しと再リハーサルを行う。

2回目のステージの内容は1回目と同じ。
終演後は会場の撤収と清掃をして主催者へ全員で挨拶する。

ハイエースに乗り込み、帰途に就く。



会場やショーにより多少異なるが、基本的にはこれが子供ショーの1日だ。
既に3Kの香りが漂っていると思うが、これから詳細に解説していきたい。



● 3Kの①    キツい

子供ショーの世界はバリバリの体育会系だ。
年功序列はあるが実力も重視し、使えない者は周囲から足蹴にされる。
新人なんて最初はゴミ同然の扱いをうけ、常連はもちろんMCの女の子にさえパシリをさせられるくらい地位が低い。

また、このバイトは早朝から深夜までまる1日拘束される。
時給ではなく日給制だから残業代も出ない。
しかも週に1回ノーギャラの練習会があって、参加しないとメンバーの信頼が得られず昇給も見込めない。
若手はパシリやキツい練習をさせられて、最低でも補佐くらいにならないと一息つけないので辞める者も多い。

上になっても、ヒーロー役はカッコいいが主役だから肉体的にハードだ。
JACかと思うくらいの練習を必要とするし、ステージが終わっても握手会やサイン会などで出演し続け酸欠や熱中症で運ばれる者もいる。

子供たちが喜んで握手しているア〇パンマンやラ〇ダーは、本当はいまにも倒れそうなのだ。



● 3Kの②    キタナい

このKはクサい、に変えたほうが良さそう。

ショーのキャラクターはもちろん洗っている。
ゴ〇ラや怪獣は丸洗い出来ないから洗剤を浸したスポンジで拭いたり手洗いをする。

でも、正直言ってそんなのでは追いつかない。
特に真夏のショー終わりのキャラクターの汚れと臭さは尋常ではない。

例えば、戦隊モノのヒーロースーツはナイロン製なのでまだ大丈夫。
ところがウル〇ラマンは素材がウェットスーツのそれとほぼ一緒。
着るのも大変だから一度着たらショーが終わるまで脱ぐことは出来ない。

終演後に脱いだスーツをひっくり返すとコップ1杯分の水が汲めるほどの汗が採れて、今ならサウナブームなので逆にいいかもしれない。
だがそれが乾いたときの激臭は筆舌にしがたい。

そんなキャラクターたちが満載のハイエースに乗って帰るとき、異臭の中で私たちは自分が肉体労働者だとつくづく実感させられる。



● 3Kの③    キケン

キャストは大抵どこかしら怪我をしている。
ヒーロー、メー作どちらにも言える。
殺陣やキツい練習での怪我はもちろんだけど、キャラクターを着ている時が一番危険だ。

なにしろ視界が悪い。
ヒーローや戦闘員のマスクから視える世界は、通常の30%もない。
それで大立回りをするのだから怪我しない方が不思議なくらいだと思う。

アニメキャラの場合はもっとひどい。
そもそもあり得ない位置に目があったりする。
立体的なボディの真ん中辺りに空気穴を兼ねてポコッと空いた隙間から周りを見渡すのはまず不可能だ。
メーカーは本当にヒトが入るのを想定して制作しているのだろうかと疑いたくなる。

段差を踏み外すなんてのは日常茶飯事。
悪くすればステージから転落して大惨事になりかねない。

だから現場に到着してステージが高い位置にある事が判明すると、メンバー全員に緊張が走り念入りなリハーサルが始まる。



でも、つらいことばかりではない。
この世界だからこその面白さや楽しみも確かに存在する。

ヒーロー役のキャストとMCの女子が交際するのはもはやお約束。
ステージでヒーローとして大活躍する男子は、ゲレンデでスノボやスキーをしているのと同じかそれ以上にカッコ良く見えるらしい。
ただ、付き合っても大体はすぐに別れてしまうので、そこもゲレンデ効果と似ている。


また、大きなイベントでは声優さんや役者さん、アニソン歌手にもたくさん会える。
そういうのが好きな方にはたまらない仕事かもしれない。


そして、ささやかではあるが現場終わりの車の中で、苦楽を共にしたメンバーと戴くおやつ。
私たちにはこれが何とも言えない幸せな時間なのだった。



あなたが今後ヒーローショーを観る機会があったら、この記事を思い出してキャスト達を応援してくれればOBとして大変嬉しい。

ヒーローたちは子供や大人の夢と希望を叶える為に、いつもどこかの会場であなたが訪れるのを待っているのだ。


さあ、ヒーローショーへ行こう!





Special thanks : ヤスユキさん




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