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スパゲッティーのパンチョ_旨辛ナポ

ごめん。先に謝っとく。
正直ちょっとナポリタン舐めてたわ。

ナポリタン専門店というのがある、というのは私も知っていた。
その店の横を通る時に、フゥン、ナポリタン専門店ね、と一瞥をくれた私がいたのを、私ははっきりと覚えているからだ。

だって、ナポリタンだよ?
ナ、ポ、リ、タ、ン!!

お母さんが、お昼ご飯に茹でたスパゲティをソーセージと玉ねぎとピーマンと一緒にちゃちゃっと炒めてケチャップで味付けしたやつだよね。
スパゲティの本場、イタリアのナポリに憧れて日本人が勝手に作ったお子様ランチの端っこに添えられた食べ物だよね。

え?!
違う?!
偏見?!

なんてことを思いながらも、私はkojuroさんのこの記事を読んでからというもの、本当にうまいナポリタンがあるなら、自分の舌で確かめてみたいと常々思っていた。

何にもやる気にならなかったとある日、私はその願望を叶えることにした。

その日私は昼食を持参せずに職場に行った。やる気がないんだから、朝に昼ごはんの準備をするわけがない。そんなにやる気のない日なのに、ナポリタンを食べるんだ!という私のやる気だけは、間違いなく私の中心にあった。

でも残念なことに、その日は体調不良者続出で、職場の人員が少なく、外で食事をするのが難しい状況だった。けれど、昼休みの時間を調整すればなんとかなりそうだ。食事のことを抜きにして、少ないメンバーでその日を乗り切るために私はシフトを調整した。そして、こっそりと自分が外で食事をとれるように小細工をした。やる気だ……私はナポリタンに挑むやる気に満ち溢れている!

シフトを調整した結果、私はいつもより早い時間に昼食をとることになった。その時刻、11時。正直おなかはすいていない。……が、仕事が優先なので仕方がない。

ランチタイムには少し早いその時刻に、私はスパゲッティーのパンチョの戸を叩いた。
とはいえ、そこの店舗には戸がなかったので、私は心の中で「たのもー!!」と扉を叩き、店舗内に入ることになった。まさしくエアドアノックだ。ん? なにそれ。

まだ数人しかいない店の中に誘導され、私は四人がけの席に一人で座る。そしてメニューを開く。やっぱりここはノーマルか?と思いつつ、どうせタバスコをふんだんにかけるのだから、と「旨辛ナポ」というメニューを選択。トッピングに目玉焼きはのせたいところ。私は小を選択して目玉焼きを追加した。

店内で鉄板のじゅうじゅうと焼ける音が響く。美味しそうな音が耳のトンネルをくぐり、私の脳内を刺激した。店内の厨房で私のナポが調理されている。その様子は私からは見えないが、音だけで美味しいことがわかる。食べなくても美味しさがわかる気がする……!もしかすると私はエスパーかもしれない。ナポリタンは私に新しい能力を開花させてしまった。

冗談はさておき、美味しいかもしれないという予感は、匂いだけでなく音でも感じるんだという初めての体験をした。すいてなかったはずのお腹がぐうと返事をした気がした。

とん、と店員さんがかわいいギンガムチェックのテーブルにナポリタンと味噌汁を置いた。これで小?というボリュームよりもそっと添えられた謎の味噌汁に私は驚いた。ナポリタンがいくら日本発祥の料理とはいえ、いくらなんでも味噌汁というのはどういう了見だろうか。謎すぎる。

とはいえ、美味しそうなナポリタンを早く食べたいという衝動に駆られ、私はフォークでクルクルと麺を絡めとると、口の中に放り込んだ。口いっぱいのナポリタンを頬張る。

うんまっ!!

太めのもちもちとした柔らかめの麺に、たっぷりのソースが絡まる。これはただのケチャップではないな、というのが一口でわかった。気になってサイトを覗きに行くと、手作りのトマトソースが使われているらしい。どーりでうまいはずだ。トマトソースのスパゲッティでもなく、家で作るケチャップだけのナポリタンでもなく、絶妙に美味しいトマト味がしっかりと絡んだパスタ、それがパンチョのナポリタンだと思った。

麺もじゅうじゅうと焼いていただけあってこんがりとした部分がある。言うなれば、鉄板で焼かれたソースたっぷりの焼きそばに近いものがあった。家で作る定番のお昼ご飯である焼きそば。家で作る焼きそばももちろん美味しいけど、外で食べるこだわりのある焼きそばの美味しさって、家では絶対に再現できない。あれに近い感動がこのナポリタンにはあった。

何口か食べて、味噌汁をずずずとすする。なるほど!味噌汁、アリよりのアリ!
ナポリタン自体が日本で発祥したものだからだろうか。味噌汁がよく合うと思った。少し甘めでコッテリとしたナポリタンいっぱいの口を一度リセットするように、味噌汁が絶妙なサポートをしてくれる。

完食までの道中、私は目玉焼きを崩しては麺に絡め味噌汁を飲み、粉チーズをかけては麺に絡め味噌汁を飲み、とにかく、きっちり味噌汁に伴走してもらい、私は飽きることなく最後までナポリタンを満喫した。

とにかく私はナポリタンを舐め腐っていた。
43年間、私は人生において一度もナポのポテンシャルを考えることもなく、ただただ「君は所詮ナポリタンでしょ?」というよくわからない冷ややかな目線をナポリタンに送りつづけていたのだと気づいた。

改めて言う。

ナポリタンは美味しい!





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