あったかくてつめたい至福の時間
たまには肝臓も休みたい。
そんな声が聞こえてきそうな慌ただしい12月の夜。
もちろん休肝日は設けているけれど……。
肝臓の気持ちを知りつつも、冬になるとこっそり飲みたくなるのは、あったかいお酒。
全ての家事も終えて、お風呂にも入って、あたたかい部屋で過ごす夜。
夫も子どももそれぞれの部屋に入って、リビングには私ひとり。
私はお湯を沸かして、グラスにウイスキーを注ぐ。
お湯が沸きすぎないように注意して、ウイスキーを入れたグラスにお湯を注ぐ。
比率はウイスキー:お湯、4:6がスキ。
そして冷凍庫から買っておいたアイスクリームを取り出して机の上に待機させておく。
グラスのホットウイスキーを口に含む。
ほんの一口含んだだけなのに、ふわっと鼻からウイスキーの香りが抜ける。
はぁ、と思わずため息が漏れそうな温かさが体の中心まで落ちてくる。体の中からじんわりと暖かさが広がって、ゆっくりと体と心がほぐれていく。
アイスクリームの蓋を開けて、スプーンをカップに滑り込ませる。
暖かい部屋に置いていたアイスクリームは外側からじんわりと溶け始めていて、私はそれを見逃さずにティースプーンの小さいさじにアイスクリームをすくって乗せる。
あたたまった口の中にスプーンを含むと、冷たいアイスが滑り込んで、ひやっとなった。冷たいアイスが口の中でとろとろと溶けていく。溶けたアイスの中からラム酒に漬け込まれたレーズンが「こんばんわ。今日はいい夜ですね」と顔を出した。
「素敵な夜でしょ」
私がレーズンに返事をすると、レーズンはラム酒を私にプレゼントしてくれた。
私はあたたかいウイスキーと冷たいアイスクリームを交互に食べた。
開いた本にアイスクリームが落ちないように、この時間ばかりはウイスキーとアイスクリームに集中して。
最後のひと匙を食べ終えて、最後の一口を飲み干して、私の至福の時間は終わりを迎える。
きっと今日はいい夢を見れそうな気がする、なんて考えながらはみがきをしてベッドに入った。
🥃
朝起きて、私は考えた。
アイスクリームのラムレーズン、もっといっぱい食べたいなあ。
もう、自分で作っちゃう?
インターネットで調べてみた。
「ラムレーズンの作り方」
オイルコーティングをされていないレーズンだと下処理せずにラム酒につけていいみたいだ。
私は早速、レーズンを入手した。
ラム酒は?
家のキッチンカウンターを想像する。
カウンターにはいつもは買わないマイヤーズラム。
そういえば、夫とお酒コーナーでお酒を物色していた際に、目に入ったラム酒を手に取って買っておいたのだ。
「ラム酒って、海の男の酒だよね」
「海賊の酒こそ、ラム酒だな」
「てことは?」
「これを飲めば、俺たちもパイレーツ!!」
と、敬愛するジャック・スパロウ船長に敬意を表してラム酒を買っていたのだ。
ラムレーズンができあがればこっちのもの!!
ウイスキーを用意しよう。
バニラのアイスクリームもいそいそと用意して。
好きなだけラムレーズンをバニラアイスクリームに乗っけて、さらにレーズンを漬けていたラム酒もバニラアイスクリームにかけちゃおう!!
ドキドキワクワク、胸が高鳴る私の楽しいお酒の時間。
手作りのラムレーズンはダークラムの甘くて芳醇な香りがたっぷりと内包されて、噛むたびにじわっとラム酒が口の中に広がって、香りが鼻から抜けていく。バニラのアイスクリームととても相性がいい。
ジョニーウォーカーのレッドラベルはスッキリとした味わい。
ラムレーズンのアイスクリームの邪魔をせずに、寄り添ってくれるような。
私の口の中はあったかいとつめたいが交互に訪れて、一気に賑やかになった。
北風と太陽みたいだな、と一人リビングでふふっと笑う。
どちらの刺激も魅力的で私はそれに夢中になった。
夢のようなひとときはあっという間に終わりを迎える。
もっと食べたいし、もっと飲みたいなあなんて名残惜しさを残しながら。
でも少しだからこその幸せがそこにある。
おかわりはグッと我慢。
また食べよう。
至福の時間は、自分次第。
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