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失われた愛を求めて、誰もが「2046」へ向かう。ウォン・カーウァイ監督『2046』

2004年に公開された本作、日本からは木村拓哉が出演するなど、アジアのスターを集結させたウォン・カーウァイの新作とあって大変話題になりました。
私も当時は『欲望の翼』と『花様年華』と繋がりがあるらしい…程度の情報で観に行きました。

1960年代後半の香港。記者で作家のチャウはかつてひとりの女を心の底から愛したが結ばれることはなかった。過去の思い出から逃れるように自堕落な生活を送っていた彼は、ある日ジンウェンと出会う。彼女には日本人の恋人タクがいたが、父親の反対でタクは日本に帰ってしまった。チャウはふたりに触発され近未来小説を書き始める。

「ウォン・カーウァイ4K」公式HPより

やっぱりトニー・レオンの演技!


『花様年華』のチャウを本作でも演じるトニー・レオン。
1962年と1966年のチャウは同じキャラクターなのに振舞いはまったく違います。
チャン・ツィイー演じるバイと初めて出会ったとき、足先から顔へ這うように移っていく視線。からの「俺に用?」と距離を縮めるチャウ。
こんな下品な目で女を見るような男じゃなかったのに、変わってしまったチャウ・モウワン…(しかしとんでもなくセクシーで魅力的!)
『花様年華』で愛したスー・リーチェン(チャン夫人/マギー・チャン)を忘れられず、女性遍歴を重ね、小説を書く。
どれだけ女と遊ぼうと満たされず、忘れようとすればするほどチャン夫人の記憶は鮮やかになっていくのです。
『2046』は、過去に囚われ変わりたいと渇望する男の物語。
いくつかの経験と出会いの末、チャウは何を思うのか。
『花様年華』のチャウとの演じ分けに苦労し口ひげを付けることを提案したとのことですが(大正解!)、本作との外見や内面の変化と不変な部分に是非注目してください。

油断するとトニー・レオン褒め褒めブログになってしまう

『欲望の翼』、『花様年華』とのつながり


この2作と本作に話の連続性はありませんが、もしかしてこのキャラクターやこのエピソードはあの作品のあれのこと…?といった発見がいくつかあります。
特にカリーナ・ラウ演じる『欲望の翼』のミミ/ルルの再登場で話に出る「足のない鳥」…レスリー・チャンが演じたヨディのこと!
当時はレスリーが亡くなって2年も経ってなくて、ヨディとレスリーが重なって胸がギュッとなったのを覚えています。ミミ/ルルのその後も知れてよかったよ…

ずっとヨディを探してたね…

 『花様年華』のスー・リーチェン(チャン夫人/マギー・チャン)と『2046』のスー・リーチェン(コン・リー)とチャウはいずれも階段ですれ違う。
見覚えのある街灯に照らされ、壁に映る二人の影。スー・リーチェンが登場するこのシチュエーションは『花様年華』とても似ています。
 チャウが書く小説の中で「2046」を行き来するミステリートレイン。中の照明は『花様年華』でチャン夫人と過ごした思い出の部屋「2046」の前の廊下とよく似ていて、チャウの中にチャン夫人が色濃く残っているのが想像できますし、劇中で出会う女性とのシーンではチャン夫人と過ごした場所が印象的に登場します(例えば一緒に食事したレストランや、タクシーの車内)。
ここで私たちもチャウと同じようにチャン夫人を感じて、『花様年華』観た後の無力感がよみがえってくるのです。

記憶の中でますます美しくなるチャン夫人

女優陣がまあ豪華!


コン・リー、チャン・ツィイー、フェイ・ウォン、カリーナ・ラウ、ドン・ジエ、マギー・チャンと美しさと演技力と凄みを兼ね備えた女優陣!
それぞれがチャウと出会い心が通じ合えたかと思ったものの、やはり上手くいかない。
過去に抱えた何か、タイミング、気持ちのすれ違いだったり別の道を選んだりと、結局チャウとは離れていくのです。
チャン・ツィイー演じるバイとのエピソードはもう切なくて、どうにもならないこと、ままならないことを突き付けられるようで苦しい。
どの女性とのエピソードもチャウにとって傷と癒しを残し、そして過去へ向き合わせます。

気性が荒くてさみしがり屋で弱くて一途なバイが、悲しくなるほど可愛い

大きな障害に翻弄されるジンウェン(フェイ・ウォン)とタク(木村拓哉)のカップルに出会い、やがて小説を書き始めるチャウ。
その中の主人公は自分の過去を投影したもので、書くことで過去の愛を振り返り、自分の気持ちを見つめることになります。
変わりたくても変われない。変わり方が分からない。
過去のたらればと後悔を抱きながら、ぼんやりと前を向くチャウにあなたは共感しますか?理解できないと思うでしょうか?

『2046』、私は2004年当時観た時と受ける印象が変わりました。
それだけ自分も当時とは違っているのか、と思わされたのでした。

何にも変わらないのは友人のピンだけだった!実はピンが2046説

「ウォン・カーウァイ 4K」いよいよ10/6(木)*10/13(木)迄となりました!
劇場で鑑賞すると、今まで気づかなかったことや当時とは受け取り方が変わったところなど、自分自身の発見にもなって面白かったです。
それと、とにかく大画面に映し出される美男美女が眼福!!もちろん衣装と美術にもうっとり。
トニー・レオンの顔が大好きなのと、香港、中国の女優の美しさ、特有の芯の強さと脆さはやっぱり最高でした!コン・リーは圧巻。
上映終了まで残り少ないですが、迷ってる方絶対にスクリーンで観てください!
劇場でお待ちしてます!


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