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「ママ」が「おかあさん」に変わった日を迎えて

「おかあさん、ありがとう」

少しかしこまった長男から、卒園証書を受け取る。

(いつもはママなのに「おかあさん」、か……)

きっと、保育園の先生からそう手渡すように言われたのだろう。そんなことをぼんやりと考えながら、長男の成長に目の前が涙でにじむ。

席に戻り、多分動くのを我慢してじっと静かに参列している。隣に先生は、いない。

すっかり小さくなり色褪せた体操服のズボンをはいた長男の横顔を見て、時の流れを感じた。

今日は、6年間通った長男の卒園式だった。

主人はあいにく休日出勤日だったので、私だけで出席。慣れないセレモニースーツに身を包み、傘を差しながら門をくぐる。もうすぐ2歳の次男は、別室のクラスに預けた。

正直、長男の卒園の実感があまりないまま今日を迎えたが、いざ会場に到着して子どもたちを目の前にすると「今日が本当に最後なのだなぁ……」と思わされた。

元気よく歌う長男と、クラスのお友達。
クラスの全員が一言ずつ発表する、お別れの言葉。
目の前のスクリーンに映し出される、0歳からの保育園生活のダイジェスト動画。
参列する周りの保護者達の鼻をすする音。
保育園の先生方も、ハンカチをそっと目に当てている。

それぞれの想い出と包まれたあっという間の2時間だった。

赤ちゃんの頃から知っている我が子は、来月から小学生。

この前産んだ気もするんだけど。信じられない。

1歳くらいのとき、保育園に預けるときはギャーギャー泣いていたこともあったのに、いつからか笑顔で「バイバイ」と私に手を振り、お友達に「おはよう!」と元気にあいさつする。

(あれ?いつからだっけ)

オムツが外れて、トイレも自分で行けるようになった。

(あれ?いつからだっけ)

言葉が通じなくて、孤独を感じていたのに、今はよくおしゃべりしてうるさいくらい毎日話しかけてくる。

(あれ?いつからだっけ)

次男が生まれて、すっかりお兄ちゃんになった。ちょっとだけ赤ちゃん返りした時期もあったけど、今はそんなことはなくなった。

(あれ?いつからだっけ)

それぞれの瞬間は、貴重でこの上なく大切なのに、必死過ぎて覚えていない。

ただ、本当にあっという間だった。

本当はもっと卒園式の様子で書きたいことはたくさんあるはずなのに、うまくまとまらないので割愛。

思い出がたくさん浮かんでは消えて、今、放心状態である。

2年前くらいだろうか。先生からそれとなく様子を聞いて、長男は集団行動が苦手な傾向にあると気づいた。「発達グレー」というやつだ。

発達支援の方と話したり、相談会にも行ったりした。小学校のほうにも共有している。気を遣いながら、話しかける支援の先生方の様子がやけに印象に残った。

そうか。多分デリケートな問題だから、さまざまな反応をする保護者の方もいるのだろうなぁと話を聞きながら感じた。

じっとしておくのが苦手で、年少あたりからは発表会や運動会はいつも先生が隣につきっきりだった。

元気いっぱいで活発。お調子者で明るい長男は、人見知りせずお友達や先生に話しかける。興味を持ったものに一直線で、それまでしていた作業をそっちのけで動いてしまったり、忘れてしまったりする。ちょっと目を離した隙にいなくなり、ショッピングセンター内で迷子になることも多々あって、青ざめた経験も何度かある。

私とはまた違う性格に、接し方や対応に戸惑うこともしばしばだった。

何が「個性」で、何が「異常」なのか、正直よくわからない。

楽観的な主人とは別に、わたしにはちょっと不安もあった。人目を気にしてしまう自分が悪いのかもしれないが。一緒に出かけるのがすごく疲れてしまうときも正直あり、外出での遊びは主人に任せる時期もあったなぁ。

これを書いている今も、彼の個性や長所だなぁと感じる反面、それらがあることで「学校がつらい場所になるのではないか?」とちょっと不安もある。私のように、学校嫌いになるのではないだろうか、と。

だから、来月からは少し仕事のペースを落として、長男に寄り添いながら関わる予定だ。帰宅したら、一緒に宿題を見たり、今日あった話を聞いたり持ち物を揃えたりするだろう。

在宅で仕事をする働き方にしておいてよかったな、と思う。

でも、年長に上がってからは、先生が隣につくことも少なくなった。相変わらずゴソゴソ動き友達とおしゃべりするけれど、待つ場面や静かにする場面にも対応できることも増えて、集団行動も少しできるようになっていた。

彼なりに、ゆっくりと、でも確実に成長していた。

そして、保育園の先生方がたくさん寄り添って指導してくれたんだろうなぁと思う。

ハキハキした担任の先生が泣きながら挨拶する様子を見て、感謝がたくさんこみあげてきた。

長男を一緒に育ててくださって、本当に、本当に、ありがとうございます。

長男に、数えきれないくらいのたくさんの愛情をありがとうございます。

血のつながりなどは関係ない。

長男を育ててくださったのは、私たち両親だけではない。先生方や地域の方など、長男はたくさんの愛に包まれていたのだ。

本当に、ありがとうございます。

無事に今日を迎えられてうれしい。

でも、やはりちょっと寂しいなぁ。

男の子だから、きっと親離れは早いだろう。

もう少しだけ「ママ」と呼んでくれるだろうか。
あと何回、呼んでくれるのだろう。

来月からは、次男だけを保育園に送迎することになる。

これからも、目の前の日々を大切に過ごそう。


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