見出し画像

積読が減らない人に捧ぐ『失敗の本質』

普段から本を読むことが好きな人の悩みのひとつに、読みたい本の数に読むスピードが追いつかないというものがあります。

これを「積読」(つんどく)と呼び、読もうと思って買ったけれど読んでいない本が棚に詰まれていく状態を指します。

この積読状態に対して「買ったにも関わらず読まないのはもったいない」と思ってしまうことも多いでしょう。

そして既に相当量の読んでいない本を持っている状態でも尚、また読みたい本が現れて買ってしまう時、「読めないとわかっているにも関わらず本を買うのはもったいない」とネガティブに感じることがあります。

人生の時間は有限である一方で、人間の好奇心は無限に湧き出てきます。この積読状態とどのように向き合っていけばよいのでしょうか。


積読が増えていく理由

書店に足を運ぶことが好きな人は本屋に行くたびに気になる本を見つけて「今度読もう」とチェックをし、ネットで情報収集するタイプの人は出版社や個人のブログなどWEBメディアから情報収集をして「これも今度読んでみよう」とチェックをし続けます。時にはその場で購入もするでしょう。

しかし、仕事や勉強、日常生活をしながら本を読む時間を捻出しても、読みたいと思っている本を全て読み切ったという瞬間は一向に訪れず、更には一冊の本を読んだことで増えた知識から、また別の読みたい本が出てきてしまいます。

こうして読書が好きな人は「積読を解消したい」という欲求をいつまで経っても満たすことができずにいます。

この状況に対して積読している本がたくさんあるから買わないでおくという対策もあれば、そもそも書店に行かずWEBメディアにも目を通さないという対策もあります。

新しい情報を手に入れるより前に、今目の前に積まれている本を読み進めれば積まれていく本は減っていくからです。

しかし実際にそれができるかと言うと、なかなか人の好奇心というのは止められるものではありません。

「この本おもしろそう」と思った今この瞬間に、これを買わないことで今後の人生で読むことがなくなってしまうのではないか。

ここで身銭を切ってこの本を買うことによって、自分の積読リストにこの本は登録され、近い将来読み切ることになるのではないか。

積読状態を避けるために本の購入を避ける時にはこの様な意識が働いてしまい、結局のところ読めていない本がたくさん詰まれ続けることとなります。

今の状態に焦点をあててみる

この様な積読状態の悩みを解消するには「積読状態を解消しようと本は読み続ける」という、当たり前の解決策を取り続けることをおすすめします。

何の解決にもなっていないと思われるかもしれませんが、読めない本を買ってしまうことではなく「読み続けている」今の自分の状態に焦点をあてるよう、積読に対する価値観を変えて捉えてみるのです。

本を読んでいる現在と今後読むであろう本があるという未来は、新しい知識を得ようと行動しているプロセスの渦中にあります。

本棚に積まれている本をいつか読みたいという未来への思いが、それを達成するまでの今の生き方に小さな目的も与えてくれます。目的があることで人の行動は前向きに変わります。

積読がありながら本を読み続けている今のその状態に価値を置くのです。

適応は適応能力を締め出す|『失敗の本質』

第二次大戦における日本軍の諸作戦の失敗を軍事的に分析した『失敗の本質』という組織論の名著があり、この本で価値のある組織について印象的なことが書かれています。

適応力のある組織は、環境を利用してたえず組織内に変異、緊張、危機感を発生させている。
(中略)
完全な均衡状態にあるということは、適応の最終状態であって組織の死を意味する。逆説的ではあるが、「適応は適応能力を締め出す」のである。」

『失敗の本質-日本軍の組織論的研究-』(中公文庫)P.375

ここで批判されているのは適応を完了した状態の組織が価値を失ってしまうということで、つまり適応を完了させようと変化し続けているその瞬間にこそ価値を見出すという考え方です。

この考え方は組織だけでなく個人に対しても応用が可能です。これを積読に置き換えて考えてみましょう。

読みたいと思って買った本を全て読み切った時には少しの達成感こそ感じるかもしれませんが、その瞬間は何も読んでおらず未来の自分に向けて新しい知識を取り込もうとしていない状態です。

そのため積読の完全なる解消は成長が止まり好奇心が枯渇した状態を指すとも言えます。適応が適応能力を締め出した瞬間です。

組織だけでなく個人も、適応しようと活動しているその状態にこそ価値があります。

積読状態というのは「買ったにもかかわらず読んでいない」といったネガティブな状態ではなく、新しい知識を学びながら考え続けていくという、価値のある今を過ごすことができる状態だと思います。

この様に考えることができれば、目の前に積まれている積読本たちも未来の自分への過程だと思うことができ、決してもったいないものだとは思わずに済むのではないでしょうか。

この記事が参加している募集

わたしの本棚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?