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カレーライスと資本主義|人はなぜ働くのか

荒唐無稽に思われるかもしれませんが、カレーライスの歴史を調べていたところ、資本主義社会についてふと思ったことがあるので、ここに書いてみようと思います。

カレーの歴史を通して、資本主義社会において人が前向きに働く方法を考えてました。

さて、会社員をしていると一般的には週5日働いて週2日の休みがあります。

出社をする平日には、残業が発生してしまったり、仕事以外にも家庭でするべきことがあったり、一日の残った時間は寝るだけとなってしまうことも多くあります。

一方で週末には、本を読んだり音楽を聴いたり、旅行に出かけたり、自己研鑽に励んだり、時間を活用して様々な営みを行うことができます。

それでは、ひとりの人間にとって、仕事の日と休みの日ではどちらがプライオリティが高いのか。会社員の方にとって、休日を楽しみにしながら仕事を頑張っている人も多いのではないでしょうか。

休日のために仕事を頑張っている人にとって、仕事がうまくいかない時や充実した休日が過ごせなかった時には「何のために働いているのか」と自問自答してしまう瞬間があるはずです。

「休むだけで貴重な週末が終わってしまった」というように。

しかし、そんな社員ひとりひとりの事情に対して、利潤を追求しつづける資本主義の企業は寄り添ってくれないことが多くあります。

ワークライフバランスを重視している企業に転職したり、労働基準法を学んで理論武装したうえで勤めたり、社会制度や文化に向き合うかたちでの攻略法もあるかもしれませんが、現実には変えられるものと変えられないものがあるため、仕事の悩みを環境ごと変えることは非常に難しいものです。

そのため、自分ひとりでできる資本主義社会との向き合い方を、「カレー」の歴史を通して考えてみます。まずは資本主義社会について理解することから始めます。

経済学的考察|「労働力再生産」の説明

資本主義社会を理解するためには経済学の知識が必要です。様々な種類の経済学が存在しますが、今回は『資本論』の著者であるカール・マルクスの理論を参考にします。

マルクスの理論は「労働」に関して考察する場合に、非常に強力な武器になります。

過去に「仕事のやりがい」を考察する「失われたやりがいを求めて|労働の疎外と仕事」という記事で「労働の疎外」という概念を紹介しましたが、今回は「労働力の再生産」という概念を紹介します。

「労働力の再生産」というのは、継続的に働いてくれる労働力を確保するために会社側が社員に休息や休日を与え、翌日以降も働くことができる状態に回復させることを指しています。

9時~18時の9時間の拘束時間のうち、1時間の休憩時間を設けてランチを食べて休んでもらい、休憩が終わったらエネルギーを蓄えてまた仕事に戻ってもらう。

月曜日から金曜日まで働いてもらい、土日を終日お休みとしてたっぷり休養を取り、レジャーにも行ってもらうことで、翌週の月曜日からはまた心身ともに元気に働いてもらう。

マルクスの理論から説明すると、これらの休みは全て社員に働き続けてもらうための「労働力の再生産」です。

夏休みやゴールデンウイーク、年末年始のような長期休暇も、任意に取得することができる有給休暇も同様です。

全ての休憩や休日は「労働力の再生産」のため、つまり永遠に労働者を働かせるためだったのです。

働かされるために回復する

この理論は非人道的な説明に感じてしまいます。資本を説明する『資本論』だから当然なのですが、それでも頑張って働いている側からすると正直しんどい現実です。

僕は過去に大病を経験し、手術と化学療法での治療を経て1年以上の療養生活をしていたことがあります。その後、無事に社会復帰を果たせたのですが、復帰後の職場では僕の病気の背景など理解を示してくれる状況ではなく、結果的に現場の利益に貢献できるように厳しく働き続けることになりました。

その当時「これじゃあまるで会社で働かされるために治療したみたいだ」と感じたことを覚えています。冒頭でも少し触れた「何のために働いているのか」という自問自答に悩むことを経験したのです。

その後『資本論』を読むことで少しは社会を理解することとなり、当時の悩みの原因が「労働力の再生産」という現実だったことに気づくことができました。

変えられない現実との向き合い方を考える

さて、ここまで非常に現実的で夢のない経済の理論を説明してきました。ここまでお読みいただき理解していただいた方でも「じゃあどうすれば良いんだ?」と感じられることかと思います。

まず、「労働力の再生産」を理解して現実として受け止めることができたら、その理論をどのように捉えるかは個人の自由です。絶対的な解答は存在しません。

この理論を知ったことで、自分が資本家になって人々を働かせる側にまわるという考え方をしてもよいでしょう。また、そんな現実を変えようと社会変革につながる行動を起こしてもよいでしょう。

しかし、やはり再現性が高い方法は資本主義社会の捉え方を工夫することだと思います。資本家になることは大きなリスクを伴いますし、社会変革のために革命を起こすわけにもいかないでしょう。

そこで、できる限り多くの人が身近に感じられる例をもって資本主義社会の捉え方を説明できるよう、食べ物を通して説明をしていきます。食べ物のなかでも世界的にポピュラーであり、日本人にも人気が高い「カレー」をここから取り上げます。

カレーライスに学ぶ資本主義社会の魅力

『カレーの世界史』という本があります。新書サイズでカラーイラストも豊富なわかりやすい本で、カレーの伝搬を通して世界史を説明した一冊です。

カレーはご存じの通り、もともとインドで生まれた食べ物ですが、大航海時代を機にイギリスがインドを植民地支配した時代に、イギリスに伝搬されます。

イギリス人の現地駐在員は本国のイギリスに帰国してからも、インドで食べたカレーの味を忘れることができずに、イギリスで「カレー粉」を発明します。これがカレー粉の起源です。

また、イギリス以外の国への伝搬は奴隷制の廃止が関係しています。イギリスの植民地だった各国で奴隷制が廃止されると、現地での労働力が不足したので、それを補うかたちでイギリス植民地下であったインド人達がそれらの国々に労働力として派遣されました。彼らが派遣先の国々でインドのカレーを伝えたことにより、カレーは世界中に伝搬することになります。

日本への伝搬については諸説ありますが、米国からペリーが来航して開国を果たしてから横浜を拠点に伝わった説が有力です。その後、戦前に本格インドカレーが伝えられ、戦後の学校給食のメニューに採用されてから日本の国民食にまで上り詰めました。

これらカレーが世界に伝搬されたのは、大航海時代におけるイギリスがきっかけであり、奇しくも資本主義社会の発展と時期は重なって進行していきます。

イギリスで勃興した産業革命は資本主義社会の発展を後押しし続け、その後の世界の主流となり、グローバル資本主義社会となって世界中で安くて美味しいカレーを提供できるまでに至ります。

つまり、資本主義の発展がなければ、おそらく日本人である私たちはカレーの味を知ることもないまま現代を過ごしていることも想像できます。

カレーだけではなく、アイスクリームでも同様です。アイスクリームの起源は中国の氷を保存する洞窟にあり、そこから氷菓としてイタリアのメディチ家およびフランスの料理人を経てヨーロッパに拡がり、アメリカで商品化された後に日本まで伝わってきます。今ではコンビニで年中無休で手に入ります。

多くの当たり前な幸せなことが、「労働力の再生産」が支えている資本主義社会によってもたらされていることを理解できるはずです。

仕事に悩んでしまっている時などは、現代社会のネガティブな側面にばかり目が行ってしまいますが、実はあり得ないほどの幸福を当たり前のように実現させたのが現代までの資本主義社会の魅力でもあります。

良い面も悪い面もある資本主義社会は今後さらに急速な発展を続けていくように見えますが、それをどう捉えるのかは個人の価値観次第です。

「何のために働いているのか」と悩んでしまった時は、美味しいカレーでも食べながらその歴史に思いを馳せて、これからどう生きていくのか考えてみてもよいのはないでしょうか。

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