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ハリウッドで西部劇作品が増えそうだと思う理由。作品を地産する時代

ハリウッドで西部劇が人気?

私は今「イエローストーン」という Paramount+ のオリジナルドラマを観ているのですが、最近ちらちらと聞こえてくるのが「今、ハリウッドで地味に西部劇が盛り上がってきている」という話です。

たしかに本国で大人気でスピンオフシリーズも作られている「イエローストーン」に、近年であればアカデミー賞にノミネートもされた「パワー・オブ・ザ・ドッグ」など、西部劇作品を見る機会が増えている気がします

そして、この話を聞いた際に私は「たしかに映像作品の地産という流れから西部劇が増えるかもしれないな」としっくり来たところがあるので、今回は「作品を地産する」という流れについて備忘録として書いていきます。

イエローストーン
パワー・オブ・ザ・ドッグ

作品を地産するという流れ

近年の映像作品には、主に Netflix を主導として「作品を地産する」という流れが来ています。どういうことかというと、作品を制作する際に「原作」もしくは「舞台」の国で制作するという流れです。パッと一言で表す適当な単語が思い浮かばなかったので、本ポストでは「地産する」「地産化」という表現を使わせてもらいます。原作準拠という単語はお馴染みですが、今回の話も似ているものの若干概念が異なり、どちらかというと時代/文化考証リプレゼンテーションに近い概念に感じています。

最もわかりやすい例としては、今年のアカデミー賞を席巻した Netflix の映画「西部戦線異状なし」が挙げられます。

西部戦線異状なし

本作の原作はエーリヒ・マリア・レマルクによるドイツ小説です。しかし、これまでの著名な映像化(映画/ドラマ)はどちらも「英語」「アメリカ制作」であり、本作が初めての「ドイツ語」「ドイツ制作」の映像化となりました。

この地産化の流れは、原作準拠、時代考証、題材の当事者たちの文化や考えから作品が乖離することを防ぐ、などなど多くの制作上のメリットと、また当事者が制作に参加する倫理的な公平感もあり、今後時代が進むにつれより一層スタンダードになっていくのではないかと私は考えています。同じような流れとしてわかりやすい例としては、「ジェンダーマイノリティの役柄を実際のマイノリティの役者が演じる」であったり、「少数民族の役柄を実際に少数民族にルーツを持つ役柄が演じる」といった流れを汲んでいると思っています。また、マイノリティ要素でなくても「キャラクターの国籍と役者の国籍が一致している」「キャラクターが本来そのキャラクターの母国語であるだろう言語を作中でも話す」なども挙げられます。その総体の概念が制作国だからです。

地産化を可能にする Netflix の体制と風土

映像作品を地産する流れは Netflix の影響が最も強いと私は感じています。Netflix には各国 Netflix のオリジナル作品という概念があり、各国 Netflix オリジナルは企画から制作まで各国の裁量で行われているように感じます。

もちろん本国オリジナルが最も制作費など企業としてリソースが割かれているとは思いますが、ハリウッド映画とその他の映画ほどの格差はなく、また言語に関しても英語以外の各国言語で制作することに躊躇がありません。むしろ、以前に紹介したように「多言語」というのが一種の面白さとして流行っている感すらあります。

配信系サービスは比較的 Netflix と同じような体制のサービスが多く、Amazonプライムも各国オリジナルがあります。日本のオリジナルという意味では個人的に Netflix よりも Amazon の方が成功している印象が強く、日本では「ドキュメンタル」「バチェラー」などヒット作品が多くありますよね。

アメリカが創作物を地産するには

この地産化の流れを考えると、それではアメリカが映像作品を制作する場合にはアメリカはどのような題材を「ネタ」として持っているのか、という話になります。

昔のハリウッド映画であれば、いわゆる「ハリウッド映画化」という行為が認められており、また他国の歴史を題材にした作品を制作することも特にエクスキューズは必要ありませんでした。しかし、近年は全ての作品が「地産化」されているわけではないにしろ、少なくとも配信系で、かつドラマとなると、その流れがかなり強まっているように感じます。

アメリカが映像作品に対して自国で地産する場合、とりわけ歴史系の作品はこの影響を大きく受けるように感じます。そこで、アメリカが持つ数少ない歴史系のネタの一つとして今後は西部劇がより題材として白羽の矢が立つことが増えるのではないか、というのが私の予想です。また、西部劇以外であれば南北戦争なども題材として使われやすくなるのではないでしょうか。

実際に Netflix と同じく配信系のサービスである Apple TV+ はウィル・スミス主演の南北戦争時代が舞台である映画「自由への道」を制作しました。

自由への道

Apple TV+ からみるアメリカで制作する意義の模索

個人的に Apple TV+ 作品は、この「地産する」という視点でみてアメリカ制作であることの意義をかなり考えられた作品が多い印象があります。

Apple TV+ は Netflix とは異なり現状は各国でオリジナル作品を制作できるほどの体制は整っておらず、大部分の作品がアメリカもしくはイギリス制作の状態です。そのためか、国際的な作品を制作する際にどうにかしてアメリカとの接点を見出しているような努力が見られる作品が多いのです。

例えば、日韓を主な舞台とし在日韓国人を題材としたドラマ「パチンコ」はアメリカでベストセラーとなった原作小説の映像化です。作家自身が韓国からのアメリカ移民1世であり、在日韓国人という日本でも韓国でもスポットライトの当たらなかった存在ゆえに第三者であるアメリカでの書籍・映像化の意義が感じられる作品です。

パチンコ

他にも先日配信が開始された実写映画「テトリス」も同じような作品です。テトリスはロシア生まれのゲームであり、日本の任天堂のゲームボーイを通して販売されました。しかし、その権利を獲得したのは当時日本に住むアメリカで育ったオランダ人ヘンク・ロジャースで、彼が本作の主人公です。

実際にテトリス本編でアメリカが登場する時間はロシアや日本に比べて少なくなっており、登場人物も英語だけでなく母国語を優先して喋る演出がされていることも近年の流れを感じる作品です。

テトリス

リドリー・スコット監督は「ハリウッド映画化」の最後の砦?

このように、いわゆるとりわけ配信系の作品では「作品の制作国と原作国/舞台が完全に異なることを避ける」流れができつつあります。

例えば「ゲーム・オブ・スローンズ」や「The Last of Us」で知られる HBO は2005年に「ROME」というローマ帝国を題材としたドラマを制作していますが、これからも同じような企画が上がるかというと微妙な気がしています。

もちろん、今後アメリカ制作映画が他国の歴史ネタを全く映像化しなくなることはないでしょうし、例えばローマ帝国「グラディエーター」の続編は2024年公開で企画が進んでいるようです。個人的にグラディエーターのリドリー・スコット監督はこの「地産化」という文脈で少し注目しています。

というのは、リドリー・スコット監督はグラディエーターはもちろんのこと、近年でも「最後の決闘裁判(2021年作品/フランス舞台)」「ハウス・オブ・グッチ(2021年作品/イタリア舞台)」「Napoleon(2023年予定/フランス舞台)」「グラディエーター2(2024年予定/ローマ帝国舞台)」と立て続けに「他国舞台」「英語作品」を撮っている監督だからです(最後の決闘裁判、ハウス・オブ・グッチは原作はアメリカの小説)。

最後の決闘裁判 / ハウス・オブ・グッチ

Napoleon はホアキン・フェニックスの主演が明かされており、作品も英語作品となります。また、フランスとの共同制作という話もありません。グラディエーター2 に関しても特に情報はみていないですが当然英語作品でハリウッド俳優が中心となるでしょう(こちらはラテン語を喋らせるわけにはいかないでしょうが)。

近年の地産化の流れから見ると、リドリー・スコット監督の作品は「古き良きハリウッド映画」ともいえる作風で、ある意味で最後の砦ともいえるかもしれません(リドリー・スコット監督自身はアメリカではなくイギリスの方ですが)。まぁ、私の予想は当たらず今後もハリウッド映画が他国の歴史映画を撮り続ける可能性もありますが…。

余談:日本の作品はハリウッド化しやすい?

余談ですが、個人的に感じているのが今後アメリカにとって日本の漫画やゲームといった作品は非常に貴重になっていくのではないかということです。日本の漫画は日本の作品であっても完全に架空の作品であったり欧米(風)の舞台の作品が多いことが理由に挙げられます。

例を挙げると、大コケしてしまいましたが Netflix ドラマの「カウボーイビバップ」や「バイオハザード」が挙げられます。また、同じく Netflix で ONE PIECE の実写ドラマが満を持して2023年に配信される予定です。

これらの作品は日本が原作国であるものの、舞台は架空の世界であり必ずしも日本語を話したり日本人役者を起用しなければいけない背景が作品にありません。

それでも ONE PIECE の主要キャストの配役は原作者である尾田栄一郎氏の設定案に沿っており日本からも新田真剣佑がゾロ役として参加していることは孫悟空を白人の高校生に改変した悪名高きドラゴンボール実写化からは時代の変化を感じさせる要素です。

ドラマ「ONE PIECE」の主要キャスト

一方で同じく Netflix による週刊少年ジャンプの実写化という文脈でみると「幽☆遊☆白書」は本国 Netflix ではなく Netflix Japan の制作となっています。幽☆遊☆白書は明確に日本が舞台の作品ですから、Netflix が同作をアメリカ制作で行なうことはないという文脈も理解できます。

また、実写ではなくアニメに目を向ければ現在アメリカで記録的なヒットとなっている「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」も原作は日本の作品ですが、作品そのものに特に日本の要素はなく、違和感のない形でハリウッド=アメリカアニメ化を実現しています。

ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー

このような理由で、例えば「鬼滅の刃」をハリウッド映画化することは難しくても、日本で実写化したものの成功を収められなかった「進撃の巨人」や「鋼の錬金術師」などは、むしろ欧米圏での制作の方がロケ地や配役といった観点から確実に相性がよいといえるでしょう。

もちろん原作者との密なコミュニケーションといった大前提はあるものの、現代の「地産する」という流れから考えると、とりわけアメリカにとってかなり貴重な「ネタ元」になるのではないかと思うのです。日本の作品は他国の作品ブランド群よりも、単純に世界での知名度が高いという要素以外にもアメリカにとって制作に関与するスペースが大きく残されている特徴があるように感じます。

最初の話はなんだっけ?となるくらい、西部劇から話が離れてしまいましたが、個人的にこの映像作品の地産という流れは非常に興味深くウォッチしている要素です。わりとネタ切れを叫ばれている感のあるハリウッド映画=アメリカ映画ですが、こういった背景もあるのではないかな〜と感じてます。Netflix や Amazon のようにアメリカ制作にこだわる必要のないほど多国籍かした制作体制の組織はオールドスタジオを含めてまだほとんどありません。今後のアメリカ作品がどうなっていくのか、注目したいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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