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鹿島槍天狗尾根遭難の報告書から学び取ったこと(原文)⑤

学習院大学山岳部 昭和34年卒 右川清夫

29日(風雪烈しく)
 学習院の5名は下のデポ食糧を、荷上げの予定だったがそれどころでなく雪の吹きたまらぬよう風の抜ける場所にテントを張りなおして、降雪対策に1日費やした。 (29日AM9時の天気図358によると北アルプスを樺太にある低気圧から延びる寒冷前線が通過、21時の天気図359から30日の天気図362、363を見てもよくわかる。) 付近に設営中の専修大山岳部の4名は、11時過ぎに撤収を終え、胸までのラッセルの大雪の中を泳ぐようにして下ったが、ベースキャンプに着けず、ビバークして30日夕刻富田久男氏(21)が凍死した。 (アルムクラブ一行は東尾根を登攀中、急に雪が降り出し、腰までのラッセルとなりその中を1400mのデポに荷物を運んだ)

 オホーツク海にある発達した低気圧の後面(西側)の日本海やシベリヤには小さな低気圧や気圧の谷がいくつもあり、それぞれが上空の寒気に対応しているとみてよい。 これの通過時に新たな寒気が入り、山では風雪が強まったと考えられる。

また、長野地方のデータと天気図をみてみると最高気温が
28日 7.7度
29日 4.9度
30日 6.7度(長野測候所データと一致)
31日 5.1度(気象庁故大井正一氏とともに山の自然科学フォーラムを主催する 和田光明氏提供)

で30日アルムクラブのとった気温、午前9時5分マイナス3度と呼応している。 なお最低気温と湿度については別途長野気象台へ出向き情報を得た。

昭和30年12月下旬の気象データ
(平成23年6月13日調査、長野地方気象台防災業務課井口泰志氏提供)
長野 測候所日別気象表
    最高気温 最低気温 相対湿度 平均風速   積雪
25日    8.8    -2.8   51   1.8
26日    5.9     0.4   63   5.1
27日    9.0     1.8   50   4.3
28日    7.7    -2.3   51    1.7
29日    4.9     0.4   85    1.0  0.5cm
30日    6.7     0.8   65    3.1
31日    5.1     -2.1  68    2.4
上記相対湿度、積雪のデータは天狗の鼻の地こすりに近い大雪崩惹起の原因に結びつく大きな要因ではないか。(右川私見)

大町地方観測所気象月表
     最高気温     最低気温
12月上旬   8.4         -4.0
   中旬  8.0         -2.8
   下旬  6.6         -3.2

     降水月表      積雪月表
  12 月25日 -         -
     26日 -         -
     27日 -         -
     28日 -         -
     29日 -         10cm
     30日 -         -
     31日 -         ―
となっており29日の天狗尾根のどか雪を裏附けるデータとなっている。

 

1955(昭和30)年12月30日9時(362 気象庁提供)

 

1955(昭和30)年12月30日21時(363 気象庁提供)

「鹿島槍天狗尾根遭難の報告書から学び取ったこと(原文)④」から

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