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僕の憧れと向日葵の花 /短編小説


8歳年上の大きな背中が前をいく。
白いTシャツは歩くたびにしわの様子が変わり、
自分より少し大きな足跡がどんどん増えていく。

離れないように、必死に走って後を追っても追いつけない。
それが悔しくて、
でも同時になぜか嬉しくて、
必死にその背中を追い続けた。

だって追いかけていると時々振り返って、
ちゃんと付いてきているか笑顔で確認してくれるから。


そんな少し前を歩く
格好良くて優しい兄が僕は大好きだ。
そして誰よりも憧れの人だ。

僕は兄のようになりたいと強く思う。



だから兄に追いつきたくて勉強を頑張った。
遊ぶ時間より勉強する時間を優先させるしかなかった。

兄に追いつきたくて部活を頑張った。
時間の許す限り練習にとりくみ身体が悲鳴をあげた。

兄に追いつきたくて良い人であろうとした。
感情を押し込めることが得意になってきた。

兄に追いつきたくて・・・・・・・・・・・


そんな生活を何年も繰り返す中でふと思った。

僕の憧れの人は、
こんな生活窮屈ではなかったのだろうか?
弱音をはけていたのだろうか?
楽しいことや好きなことに取り組めていたのだろうか?



そんな疑問が溢れてくるのに、
疑問の回答をくれはしない。

だから同じように頑張ってみようと思う。
そして経験してみようと思う。
同じような体験をし続ければ、何を思い何を感じ生きてきたのかを、
少しはわかる気がするから。


何度も自分の道を生きろと言われた気がするけれど、
僕はただ知りたいんだ。
だから同じ道を歩もうとしている。
辿ろうとしている。

そんな報告を写真の中の兄にむかって今日も行った。



来年、写真の中の兄と同級生になる。
辿る足跡がなくなるまで、あと少し。
追いつけなかった背中がもう目の前にある。

どうしようもなく泣きたくなった。


その理由はわからないけれど、
とにかく最後まで辿ることを許してほしいと写真にむかって伝えた後、
向日葵の花を供えて僕は家をでた。


向日葵の花言葉は「あなただけを見ている」

僕は兄の背中をずっと追いかけている。
追いつくその日まで。



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