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(中) バックパッカー料理人 第5便


大地が育むおいしさ...


やっと待ちに待ったボローニャ名物、そして世界中で愛されるボロネーゼを本場で学べる時がきた。
使うお肉は豚と牛かと思いきや、前日仕入れて少し余っていた羊も入れるというじゃないか。そもそも、どんな料理も家庭料理から全ては始まっている。残り物を上手においしくということだ。
まずお肉の仕分けに取り掛かった。太い筋は外し、脂身の多い部分と赤身の部分とで切り分けていく、そして別々にミンサーで荒目のミンチにしていく。脂も全て使えるわけでなく、旨味の脂もあれば臭みの脂もある。そういったとこを丁寧に仕分けていくのが、またおいしさの秘訣でもある。
一方、野菜はというと皮付きのまま肉をミンチにしたミンサーにそのまま入れちゃう豪快さ。
でかい両手鍋を火にかけ、弱火でまずはソフリットを作っていく。ソフリットは、店や地域によって多少の違いはあるけれど、イタリア料理、スペイン料理の煮込み料理の礎でもある。
ソフリットが出来上がったら一度取り出し、そこにミンチにした3種類の肉をまとめてドサっと鍋に放り込む。放り込んだら触らない。肉の全体がゴールデンブラウンになるように焼き色をつけていくのが大事なポイント。肉から水分が徐々に出ては蒸発し、濁った灰汁を含んだ水分もきれいに透明になっていく。ここでは肉に火を入れるのが目的ではない、焼き色が付いたら、ミンチにした野菜と先ほどのソフリットを加え、中火で焦がさないように炒める。両手鍋をでかい木べらでかき混ぜ、ときおり煽っていると香ばしく、あまぁい香りが漂ってくる。肉の焼けた匂いと野菜たちの香りだ。
ここ、ドロッゲリア・デラ・ロッサではハーブを加えない。シェフが美味しい野菜とストレスない肉だったら、それだけで十分すぎるじゃないか。その通りだ。
魅惑の香りがキッチンを包みこむと、いつもの秘伝のトマトソースを加え、あとはじっくり煮込むだけ。ちょうどランチの営業も始まる。鍋を端に寄せ、たまに焦げないよう混ぜてあげる。
ランチも終盤にかかる頃、シェフがボロネーゼソースを味見し、少しだけ塩を加えると「バスタ!」。完成だ。
いつの間にか、今朝並行して僕が作ったタリアテッレを茹でてお皿にもり、ボロネーゼをスプーンいっぱいかけ、「ナオトのボロネーゼだ」と差し出してくれた。
・・・うまい。食べ応えのあるゴロゴロとした肉たちは、3種類も入っているのに一体感あり、野菜の甘さ、何より作っているときは結構大量の油を使うんだなぁと思っていたのに、出来上がったのはすごくサッパリと食材の旨味と香りが詰まったソースだった。それが、卵多めのタリアテッレと絡んで、またすごくうまい。

ディナーも終わる頃、シェフたちに突然にもかかわらず働かせてくれて、お店の料理も全て教えてくれてありがとうと感謝を告げると、シェフもこんなに熱心な料理人は初めてで楽しかったと言ってくれ、なんなら明日仕入れに一緒に行くか?と誘ってくれた。
そんなの願ってもない。僕は自分のお店では98%の食材を自らが歩いて出向き、仲良くなった本物をつくりつづける生産者さんたちのを産直でやるからだ。

翌朝AM5:30にお店の前へと行くとシェフが車で店の前へつけ、店からたくさんのトマトソースの空き瓶を一緒に積んで、いざ出発。
どこに行くのかとドキドキしながら助手席に乗っていると、まず向かったのはシェフのお母さんが住むアパート。
お店のメニューにもある極小のトルテッリーニは2週間に1回シェフのお母さんが自宅で手作りしている。そのトルテッリーニを受け取って、シェフ親子と3人で、お決まりのカフェタイム。

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シェフのお母さんにお別れのハグをして、仕入れへと向かう。
まずは、ボローニャ郊外にある市場。

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元々生肉工場だった場所を改装して、今は野菜の市場となっている。どれも新鮮でみずみずしい野菜たちが光り輝いている。ここに並んでいる野菜はどれもボローニャ近郊産の野菜のみだという。シェフ行きつけの八百屋さんから野菜を受け取り、小さいフォークリフトみたいなので自分で車へと運んでいく。

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市場の後向かったのは、ここからさらに30分ほど車で走った田舎町で無農薬の野菜を作り続けるおばあちゃんのところ。トマトソースの空き瓶を渡すシェフ。

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あの美味しい秘伝のトマトソースはここのおばあちゃんの手作りだった。
秋にとれたトマトでソースを作り保存しているそうだ。空き瓶をちゃんと持って帰って渡すと少し安くなるらしい(笑)
イタリアの畑はまた違う香りがする。土の踏み心地も違う。
奥へ勝手に歩いていくとパプリカがなっていた。「ガブッ。おぉおお。うまい。」
甘いだけじゃない、パプリカ本来の苦味、青くささがいやらしくなく、旨味となっている。それを見たシェフたちが遠くで笑っていた。いきなり、野菜にかぶりつくやつはあんまりいないらしい。
ここで仕入れるのは、1週間分のトマトソースとジャガイモ。ジャガイモは倉庫で熟成させてから出荷している。店の付け合わせで出しているローストしただけのジャガイモのうまさは大地のうまさだった。この土地の美味しさ。料理の真髄の1つを感じた。

店へ着いたら、食材をキッチンへと運び、ぞろぞろとやってきたお店のスタッフたちにお礼をいい、別れを告げた。またいつでも来なさいと。みんな優しくてあったかい人たちだった。突然来たイタリア語も喋れない日本人の僕と家族のように接してくれてありがとう。


さぁ、次へ向かうはイタリアが誇る伝説的3星レストラン。ワールド50ベストレストランで最優秀女性シェフも獲得されたシェフ ナディア率いるダル・ペスカトーレ...


To be continued...


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