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「学校」という、あまりにも小さな世界について 【映画『ロックダウン』作品解説】

映画『ロックダウン』を見て、学校という空間がいかに小さな世界であったか、改めて突きつけられたような気がします。

普段は出会わないであろう人たちとも出会い、不安定で目まぐるしい日々を、せまい教室の中で一緒に乗り越える…。

もちろんそれは輝かしい青春である一方、「この小さなコミュニティに溶けこまなければならない」というプレッシャーを、少なからず私たちに押しつけてきます。

『ロックダウン』は、そんな小さな世界に溶け込むことの出来なかった青年たちの、センセーショナルな事件を真っ直ぐに捉えた作品です。

ですが、それと同時に、彼らを見つめる社会としての私たちに大きな問いを投げかけているのです。

今回は、映画『ロックダウン』と、その背景となった事件を通して、
現代の若者たちが直面する現実について、ほんの少し考えてみたいと思います。

〈作品時間〉14:59
〈監督〉Max Sokoloff
〈あらすじ〉高校で誰とも打ち解けず、周りから冷ややかな目で見られていた青年ジュリアン。しかし突然、校内で銃声と共に「ロックダウン」のアナウンスが流れ始める。本当に起こった銃撃事件の物語。

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元ネタとなった実際の出来事

この映画のもとになったと思われる出来事が、2015年の冬、米・ミネソタ州の小さな都市メープルウッドで起きました。

同地域にあるコロンビア高校で、15歳の青年が偽装した銃を学校に持ち込み、テロに見せかけて生徒らを脅したのです。

その銃は、おもちゃとして識別するための安全機能がとり外されていた状態だったといいます。

ロックダウンのきっかけとなったのは、彼がInstagramを通じて、〈「いいね!」が 1,000 件ついたら学校を銃撃する自分の動画を作成する〉という投稿をしたことでした。

コロンビア高校の校長は、この投稿を受け、保護者やスタッフに「今後このような投稿が見られた場合、停学または退学につながる可能性がある」として、子供たちがSNS上に投稿する内容に注意するよう警告しました。

しかし、その警告も虚しく、投稿から約1ヶ月後に事件は起こってしまったのです。

事件当時、15歳の青年は 「14 歳の男子生徒に武器を見せ、彼と短いやり取りをしていた」との報告もされており、ここからジュリアンとブランドンの着想が生まれたのではないかとも考えられます。


模倣された銃乱射事件の衝撃

またブランドンのセリフの中に登場した「コロンバイン高校銃乱射事件」も、この映画と関連の強い事件の1つであると考えられます。

この事件では、同校の生徒2人が、教師を含む学生ら十数名を殺害し、世間にも大きな衝撃をもたらしました。

さらに事件後には、この事件を模倣したと思われる銃撃事件もいくつか発生したそうです。

この事件を起こした生徒らは、普段から「ホモ野郎」といった意味の罵り言葉を浴びせられたり、物を投げつけられたりするなどの日常的ないじめにあっており、そうしたいじめが彼らの絆を強くしていた、とも言われています。

心なしか、ジュリアンとブランドンを彷彿とさせるような出来事ですよね。

もし彼らが違う形で出会っていたら、、また違った未来が待っていたのかもしれません。


どこにも逃げ場がない者たち

ジュリアンとブランドンは全くの赤の他人でしたが、お互い「居場所がない」という共通点を持っています。

特にジュリアンに関しては、母親が免停になっていたことや腕にあざができていたことから、家庭でも虐待を受けていたのではないかと考えられます。

家でも学校でも、どこにも居場所を見出せなかった彼ら。

若い頃はどうしても、自分の周りの世界だけが、この世のすべてであるかのように感じてしまいますよね。

出口を見出すことが難しい思春期の時期に、他にも居場所があるということを教え、選択肢を与えてあげられる大人がいるかどうか、ということは、本当に大事なことなのだと改めて考えさせられます。


ジュリアンが写真撮影にこだわる理由

また、劇中では、ジュリアンが写真撮影に対して真剣な様子も垣間見えました。

アメリカの学校では、毎年「イヤーブック 」と呼ばれるこのようなアルバムが作られるのですが、ジュリアンはかっちりスーツで決めていましたね。

本来なら、”嫌な思い出”であるはずの学校の写真撮影に、なぜジュリアンは真剣だったのでしょうか。

おそらくですが、ジュリアンは「高校生活なんてたったの720日だ」と言っていたことから、ブランドンとは違って、まだ卒業後の人生を見据えることができていたのではないでしょうか。

だからこそ、写真上だけでも、高校時代を綺麗な形のまま残しておきたかったのかもしれません。

あるいは、今年もなんとか乗り越えられた、という彼なりの証を作りたかったのかもしれないですね…。


意味深なカウントダウンが示唆すること

ラストシーンで、「今日は何日か?」と尋ねた警官に対して、「482日目」という意味深な答え方をしたジュリアン。

おそらくこれは、502日目にロックダウンを起こしてしまったと思われるブランドンと比較して、自分もあと少しでブランドンと同じようなことをしてしまうのではないか、という彼の心境を表しているのではないかと言えます。

この最後のセリフには、学校生活をカウントダウンしながら耐えてきた彼らの苦しみや絶望が、すべて詰まっているような気がしますね。


『ロックダウン』の監督は、この映画について次のように語っています。

この映画には、私たちの生活を豊かにし、世界に対する新しい視点を与え、私たち自身と人間性についての理解を深める力があると信じています。
『ロックダウン』は、私たちがいかに、社会として銃をおもちゃのように扱い、10 代の若者を「複雑な感情を経験することができない子供」のように扱っているのか、ということを取り上げています。
この映画は、私たちがテレビで目にする加害者や銃を持った子供たちが、私たちとなんら変わらないことを示唆しているのです。


若者たちが抱える心の闇、そして社会の無慈悲さを鋭く捉えた映画『ロックダウン』。

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