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#小説
名前のない書物(第十三回)
図書館5、
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ぼくが行く場所は、図書館しかなかった。
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エントランス・ホールのベンチに座っていると、〈図書館警察〉がやってきた。前回と同じ、ブルーの制服を着たロシア系の警官だ。
「通報がありましてね」
赤ペンの声は、例によって事務的な響きがした。
「あなたが、その、またもやここで粘っていると言われまして」
ぼくは、貸出カウンターの図書館員たちをふりかえった。心なしか目をそらされ
ヤスハラチヂミのお仕事日記(創作)
こんにちは。ヤスハラチヂミでございます。
1か月ぶりにウェブログを更新致します。
昨年、食の総合誌『月刊・ヴィミ』編集長の席を降りましたが、その後も様々なお仕事を賜っております。心より感謝申し上げます。
くつろぎの切り株に腰掛けつつ、雌の子ヤギを撫でる時間が増えたのは確かですが、それでも社会が私を手招きします。有難いことでございます。
最近の取り組みを以下紹介致します。
フードライターとして
引越物語⑫うさぎと懸賞マニア
「今朝の8時に届いてたみたい。」
noteからキャンペーン当選通知が来て、わたしは朝からご機嫌だった。
スマホの画面を義妹の菜摘に見せる。
「なんぷーん?」
いつもの不思議な質問攻めが始まる。内容ではなく、正確な時間や場所を知りたがるのだ。そして、聞いた途端に興味を失ってしまう。
「凪ちゃん、ほんまよく当たるよねぇ。」
何故か呆れたような表情のまま、犬のたけしと床に寝転がり始めた。
かれこれ
【掌編】ある閉ざされたトイレの個室で
剛がトイレの個室に閉じこもって、もう3時間になる。
蝶芽子はトイレのドアの前で問いかける。
「剛、今度は一体、何があったの?」
「最近、ある悩みがあって、全く前に進めないんだ。身体が一歩も前に動かない。俺はもうこのトイレの中で一生過ごすよ」
「何を言ってるの?
悩みがあるなら言ってみなさいよ。悩みは人に話すだけで50%は解消されるわ」
剛が重い口を開く。
「俺はこの極東の片隅で、毎