短編小説「前田龍のはなし」
「喜びにも悲しみにも、花はわれらの不断の友である。花と共に飲み、共に食らい、共に歌い、共に踊り、共に戯れる。花を飾って結婚式をあげ、花をもって命名の式を行う。花がなくては死んでも行けぬ。百合の花をもって礼拝し、蓮の花をもって冥想に入り、ばらや菊花をつけ、戦列を作って突撃した。さらに花言葉で話そうとまで企てた。花なくてどうして生きて行かれよう」(岡倉天心「茶の本」)
前田龍と出会った日のことを今でも覚えている、二〇〇九年の六月で、ちょうど七年前になる。彼は当時、五十八歳で、