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【短編小説】おちこぼれのおばけと13日の金曜日



今日しかなかった。



おばけのティムはその界隈では信じられないほどの落ちこぼれだった。




スケルトンのように体が折れやすいわけでもなく、


ゾンビみたいに体が腐っているわけでもない。




いついかなる時もどんな場所でも人を驚かせられるのがおばけの強みだ。



にもかかわらずティムにはそれができない。



このままでは退学になってしまう彼は、本当に落第ギリギリだった。



その落ちこぼれが挽回するチャンスは今日、

この13日の金曜日しかなかった。



「ティムは本当にノロマだな」


クラスメイトのジミーはいつもそうやってバカにした。


「しょうがないじゃないか、僕はばけるのが苦手なんだ」


ティムは体を縮こまらせて言った。


「それじゃおばけじゃなくて…なんかだ」

「なんかってなんだよ」

「あれだ、落ちこぼれだ」



落ちこぼれ。


その言葉はとてもティムのメンタルに響いた。


僕は落ちこぼれなんだ。


ずっとぷかぷか浮いているのに落ちこぼれ。



なんだか自分が不甲斐なかった。




「僕おばけやめたい」

「それは無理よティム。パパもママもおばけなんだからあなたもおばけになるのは当然よ」

「そうだぞティム、無理をいっちゃだめだ」


パパとママは紅茶を飲みながらティムをさとした。


「そうだ!ティム、おばけの格好をするっていうのはどうだ?」


「やだよ…すごく、かっこ悪いじゃないか」


「でも恐ろしいおばけの格好をしたらお前でも生者を驚かせられるだろ」


「それじゃ僕のちからじゃないよ…」

「ねえティム、あなたがどんなに恐ろしくなくてもパパとママは貴方のことを愛しているよ」

「ありがとうママ」

「気をつけていってらっしゃい」

「いってきます」





おばけ学校には決まり事があった。



ハロウィンと13日の金曜日には墓場で人間を驚かすこと。


そして噂を広めさせること。


これらができなかった場合、おばけ学校を退学になる。



「パパとママは僕を学校に入れるためにいっぱい驚かせたんだ。僕も頑張らなくちゃ」



しかしティムには自信がなかった。

一度だって驚かせるのに成功した試しがない。

見た目も弱っちく、緊張しいなせいで人間に見向きもされなかった。



墓場に到着したティムは、とりあえず墓石の後ろに隠れた。



同じ学校の子達はあっちこっちにいて、とにかくみんな恐ろしくなる準備ができているようだ。


周りがすごそうに見えて、ティムはもうだめな気がしてきた。


「僕もう退学でもいいかも…」


しかし両親のことを考えるとそうも言ってられなかった。



自分の中で揺れ動く気持ちを整理できないまま、あたりが暗くなってきた。

息をひそめる。


慎重に、ゆっくり、落ち着け、


わあ!っと飛び出せばいいんだ。


難しいことじゃない。


ただわあっと、わあっと、


「わあっと!」


自分の考えに引っ張られたティムは変な掛け声で飛び出してしまった。



驚かせようとしたこどもはぽかんとしていたし、ティムは一刻も早く消えてなくなりたかった。



遠くにいるジミーがくすくす笑っているのをティムは視界の端で捉えた。



ティムは顔が真っ赤になり、その場からそそくさと逃げ出してしまった。



落ちこぼれの僕はやっぱりだめなんだ。







翌日、ママが大慌てでティムを起こしに来た。



「ティム!起きて!早く!」


「何ママ…もう少し寝たい…」


「あとで二度寝でも何度寝でもしていいから!早く起きて!」


ティムは眠い目をこすりながらのそのそ起き出した。



墓場から逃げ出した時から、ティムはもう学校には行くつもりがなかった。

当然退学になったと思うし、家帰ってからベッドでわんわん泣いた。



眠気と戦いながらリビングにぷかぷか移動すると、パパとママが大興奮でぷかぷか浮いていた。


「どうしたの?」

あくびをしながら聞くと熱を抑えられない声でパパは叫んだ


「でかしたぞティム!噂だけじゃない!お前は新聞に載ったんだ!」


そう言われて広げられた一面には


"前代未聞の赤いおばけ!グレーヴ墓場で見つかる!"


とあった。それは紛れもなく自分のことだとすぐさま分かった。


「あなたは一面に載ったのよ!すごいわティム!」


一面に載った。


それは噂になる以上にすごいことだった。



落ちこぼれだと思っていた自分にそれができたのはとても喜ばしく誇らしいことだ。


「やったなティム!さすがパパの息子だ!」


両親がこんなにも喜んでるのは初めてかもしれない。


その笑顔を見てはじめてティムは自分のことが誇らしく思えた。



もう、僕は落ちこぼれじゃないんだ。


心の底から湧き上がる喜びを白い体で感じた。




改めて新聞を見ると小見出しには


"専門家もお手上げの赤いおばけ、'わあっと' と鳴く "


とあった。




真っ赤になったティムはやっぱり恥ずかしくて、少しだけ消えてしまいたかった。

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