【短編小説】さくらんぼカクテルと連休
連休がもうすぐ終わる。
世間はどこも賑わっていたが、ほとんど家から出ることはしなかった。
人混みは苦手だし、一人で穏やかに過ごす方が性にあっている。
でもせっかくの休みなので昼からお酒を飲みたい。
普段の金曜日では飲めない、果物のカクテルを作ることにした。
買い出しに行こうと玄関を開けると、暖かな日差しが差し込んできた。
もう5月なんだな。
ロングスカートをひらつかせながらそんなことを考えていた。
心地よい気温と頬を撫でる風。
初夏を感じて足取りが一層軽くなった。
スーパーには家族連れがたくさんいた。
嬉しそうなこどもを見るとこちらも思わず笑顔になる。
なんのフルーツにしようか悩んでいるとさくらんぼが目に入ってきた。
はやいな。
少し早いさくらんぼの現れに心が揺れ動いた。
さくらんぼの旬は6月頃。
果実は旬のものを使うのが一番だとわかってはいるけれど、あの小さな一粒をお酒に落とすのを想像してしまったが最後、他は考えられなかった。
冷凍フルーツも追加して楽しもう。
桃とブルーベリーをチョイスして颯爽と店を出た。
家の棚に並ぶ瓶たちを眺めていると、真っ白なあいつがいた。
ホワイトラムだ。
夏らしい爽やかなカクテルを作るのにこいつ以上に適任はいない。
カクテルと言ってもなにもお店に出てくるクオリティを求めてるってわけじゃない。
自宅で見て飲んで楽しむ初夏を感じるカクテルが欲しいだけなんだ。
連休を感じる贅沢をなんとか堪能しておきたい。
グラスに冷凍フルーツ、ライム、シロップ、ラム、炭酸水を入れ、仕上げにさくらんぼを浮かべる。ミントも添えちゃお。
簡単さくらんぼカクテルの出来上がり。
でもこんなに入れたらフルーツカクテルと呼ぶべきだろうが、
まいっか。
窓を開けて網戸の近くて外から聞こえるこどもの声を聞きながら
いいか、これが大人だ。
と高らかにグラスを持ち上げた。
太陽の光が透明な液体を通って散乱した。
グラスとフルーツの煌めきがなんとも美しい。
口に含むと、フルーツの香りがアルコールと共に流れ込んできた。
これこれ。
余裕があるからこそできる贅沢。
フルーツを食べてもよし、見てもよし、香りを楽しむもよし。
最後にとっておいたさくらんぼは甘酸っぱくカクテルの締めとして文句なしだった。
外で遊ぶ子どもたちの声を聞きながら思いっきり伸びをした。
ごちそうさま。
窓の外を見上げると、澄み切った青空が広がっていた。
もうすぐ夏が、やってくる。
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