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【短編小説】ホットミルクの井戸




その井戸はマグカップの形をしていた。



お花畑の真ん中にあり、さまざまな動物がやってくる人気の場所だった。



いつ飲みに行ってもそこのミルクはホカホカで、とてもちょうどよく、落ち着く温かさだった。




そこにいたずらっ子のうさぎとマイペースなくま
がやってきた。




「おいくま、このミルクの中にはちみつを入れたらもっと美味しくなると思わないか?」



するとくまはおどおどして


「美味しいと思うけど、うさぎくん、ダメだよ」

「なんでだ?」

「だってここはみんなの井戸だよ、はちみつが苦手な動物もいるかもしれないよ」

「大丈夫だよ、みんなきっと気にいるって」


そう言ってうさぎは持ってきたはちみつを取り出した。

「ええ、本当に持ってきちゃったの?」

「当たり前だろ、ホットミルクをもっと美味しく飲むためさ」



そう言ってうさぎはなんのためらいもなくはちみつをホットミルクの井戸に入れた。



くまはハラハラしていた。


それはもういつ誰に怒られるか気が気でなかった。




黄金色のはちみつをとろりと垂らし、おっきなスプーンでぐるぐる回した。



「んま!おいくま、飲んでみろよ!」

「ええ、僕怒られたくないよ」

「大丈夫だよ、ほら、一口でいいからぐいっといけ」


うさぎにそそのかされてくまがミルクを一口啜ると、それはそれは今まで味わったことないほど甘くておいしい飲み物だった。



ミルクのやさしい温かさとはちみつのやさしい甘み。



やさしさとやさしさがかけ合わさったそれは心ごと大きく包み込んでくれるような、懐かしい気持ちになった。


「最高だろ?」

「うん、おいしい」

「おかわりいるか?」


少し迷ったくまはもう井戸にはちみつ混ざっちゃったしどうにでもなれ、とホットミルクをさらに啜った。




しばらくして他の動物がやってきてミルクを一口飲んだが、あまりの美味しさに誰も彼らを叱るものは居なかった。



ホットミルクの井戸は、それ以降、

「しあわせの井戸」

と呼ばれるようになったのだった。


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