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【短編作品】闇に呑まれる



その存在は僕に喰らい付いた。




僕がその事実に気づく間も無く闇に呑まれた。




自分がどこにいるのかも何者に喰らわれたかも生きているのか死んでいるかもまるでわからない。





僕はあの世にいるかもしれない、大真面目にそう思った。




その存在は僕を包み込んで僕に話しかけた。




「お前はなぜここにいる?」




わからない。そもそも君が僕を呑んだんじゃないか。




「それは違う。お前は自らの意思で私の中に入ることを決断した」



そんなことを言われても僕は何かを選んだ覚えも選ばなかった覚えもない。





ただその闇が僕を呑み込んで、僕はそれに抗うこともできずにここにいたんだ。




「本当にそう思うのか」




当たり前だ。だって僕は選んでいないのだから。




「ならば良い。お前を私から解放しよう」




そう言ってその存在は僕の周りの闇を取り払った。





その存在は闇そのものだったのかもしれない。




しかしその闇を失った僕はとてつもなく孤独と悲しみ、そして吐き気さえ覚えた。




自己を包む闇が周りからいなくなった瞬間、それはすなわち僕自身がいなくなったに等しかった。




ただただ何者でもなくなった僕は、ひたすら荒野を彷徨うしかなかった。








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