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『傲慢と善良』辻村深月著【読書感想文】

こんにちは。
3月に入り今週楽しみにしていた本を読みました。昨年秋に文庫化された辻村深月さんの『傲慢と善良』。ついに読了。そこで今回のnoteは、ネタバレなしでの読書感想文をゆるりと書いてみました。


まずはタイトルから

この小説の題名を見てまず連想したのは、200年前に書かれたイギリス小説の名作ジェーン・オースティン著『高慢と偏見』です。きっと同じように思った方も多いでしょう。この物語の中には結婚を題材にたくさんの名言があり、いまなお多くの読者に愛されている作品ですね。

なるほどここで辻村深月さんが今の日本の社会情勢とあの『高慢と偏見』を踏まえて描くと一体どうなるのか。そう思い開いた公式サイトには「現代を描き出す、恋愛ミステリの傑作」の文字が。これはかなり興味深くなるぞと早速ページをめくりました。


重なるのはいくつもの世界

読み終えて、じんわりと心に残ったのは幾重にも重なった世界の上で浮かび上がる登場人物それぞれの想いでした。人には個々の生い立ちや価値観があります。それは故意にではなく、ごく自然にそこに存在するもの。私達は無意識にそれらを抱えて今を生きています。

単純に1+1=2ではない想いを文章にする。そこが辻村深月さんの手にかかると、上の図にあるように登場人物のそれぞれの人生の円+ミステリ・恋愛・社会などたくさんの要素の円が重なりとんでもなく深みが増すのだと今作でもしっかりと感じました。作者の視点やテーマがきっと単純に1つではないからでしょう。たとえばこの本を誰かに「それどんな話?」と聞かれたら一言で返すことはできないなと思います。

加えてこの物語は、いわゆる婚活に関わるところでも話題のようですが、確かに人生の大きな決断である結婚に関しての葛藤が詳細に描かれています。無意識に相手を選ぶ基準や価値観は存在します。そんな複雑な気持ちが見事に解像度の高い文章で表現されていました。

この作品ではもう読者のほうが登場人物に詳しくなっているのではないかと思うほど、しっかり背景を知りながらそれぞれの選択を親戚のおばちゃんとして見守ります。だからこそ単純ではない答えに時に驚き、時に腑に落ち、時に我が身に置き換えて捉える現象が起こるのだと感じました。そして、私にとって意思を持って大事にしたいことは何かを考えるきっかけをもらった気がします。


そうよそうなのよ

と、ここまでいささか抽象的に書いてきたのには、実はわけがあるんです。文庫版の後ろに位置する解説はあの朝井リョウさんが担当されています。

こちらの解説で、私が思ったことのほとんどが既に文章になっています。読みながらずっと「そうよそうなのよ」と頷き、次はこれを読んでみたら?なんて提示してくださっている作品にも完全同意でございます。さあ、ダーツをしようかと矢を握ったらとなりのお客さんが一投目からど真ん中に命中しているのを見てしまった驚きに似ています。あ、朝井さん流石!スバラシイ!はい、これは必読です。


📖📖📖


小説『傲慢と善良』は決して結婚のHowto本でもドキュメンタリーでもないけれど、「登場人物の選択を見守り海よりも深い作品を味わいながら、自身にとって意思を持って大事にしたいことは何かを考える作品」だと感じました。



お読みいただきありがとうございました。




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