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さらぬわかれ

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村の1本の咲かない桜の木。 その木には、曰くがあり…。 8歳のまま成長を止め意識のない姉とその妹の話。 GREEのコミュニティで発表していた小説(2009/1/17~)の完全…
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#小説

さらぬわかれ 序

さらぬわかれ 序

その桜は、もう数百年もその丘に立っていた。
しかし、その村の者は花が咲いたところを誰も見たことがなかった。

村の伝承によると、江戸の頃、桜の下で心中をはかった男女がいて、その事件があって以来、蕾すら付けなくなってしまったのだという。

村人は花が咲かなくなった木を何度か切ろうと試みたが、その度に災いが起こった。
そのうち、誰もその不吉な桜に近寄らなくなってしまった。

彼女たちが現れる

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さらぬわかれ 1

「ただいま~。」
池上栄子は玄関の引き戸を開けた。木造2階建ての家にカラカラと音が響いた。
両親は働きに出ていて、不在である。

栄子は中学のセーラー服を着替えないまま、2階の南の部屋に向かった。
「お姉ちゃん、ただいま。」
そこにいるのは、8歳位の小さなコドモ。栄子は少し陰りのある瞳で彼女を見つめた。
お姉ちゃん、と呼ばれたそのコドモは、ベッドから上半身を起こし、こちらを見ているものの

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さらぬわかれ 2

8年前、池上家はこの村に引っ越してきた。家を買ったので、両親も姉妹もとても喜んでいた。

村を探検していた姉妹は、当然の如くあの桜のある丘に登った。新参者の彼女たちが村の伝承など知っているわけもない。

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さらぬわかれ 3

それは、本当に一瞬の出来事だった。花も葉もないその木が強い光を放ったかと思うと、桂はその場に倒れこんだ。

「お姉ちゃん、どうしたの?」
栄子は桂に駆け寄った。桂は眼を開けたまま、虚空を見つめている。いくら桂の体を揺すっても、もう彼女は何の反応も示さなかった。

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さらぬわかれ 4

きっと、実際は数分の出来事だったと思う。
でも、栄子にとってはずっと長い時間に感じた。

「おーい、待たせたな!」
男の子は、大人を数人連れて戻ってきた。

「チッ!何でこんなところに来たんだ。」
駐在らしき男が舌打ちしながら言い捨てた。栄子には、何のことかわからなかった。
「見かけない顔だから、こないだ越してきた家の子じゃないのか?」
中年の男が栄子の顔をまじまじ見てきた。

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さらぬわかれ 5

桂は、大人たちによって診療所に運ばれた。

「特に異常はありませんね。」
と先生が抑揚なく言った。
「そんなわけない!これのどこが異常じゃないっていうの?」
栄子は先生のくたびれた白衣に掴みかかった。眼から涙があふれた。

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さらぬわかれ 6

次の日になっても、桂の状態はまったく変わらなかった。
村には精密検査の出来るような病院はなかったので、村の外の大きな病院で桂を診てもらった。
しかし、この病院の医者も原因を突き止めることは出来なかった。
何度も何度もいろんな病院で検査をしてもらったが、結果は変わらなかった。

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さらぬわかれ 7

結局、何の進展もないまま桂は家で静養することになった。意識がないのと成長しないこと以外はすべて【正常】だったからだ。

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さらぬわかれ 8

「ん…。ん~!」
栄子は目を覚ました。いつの間にか眠ってしまっていたのだ。
「昔の夢見てたんだ。」
眠っている間にすっかり夜になってしまっていた。部屋に闇が立ちこめている。
聞こえているのは、時計の音と、桂の呼吸だけ。
「私だけは、絶対忘れないからね。」
そう言って、栄子は桂の小さな手を握った。桂は反射で握り返した。ほとんど動かすことのないその手は恐ろしく冷たい。

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さらぬわかれ 9

引き戸を開けると、そこには恒太がいた。
「こんばんは~。」
気が抜けるほど満面の笑みをたたえて、鍋を抱えて立っていた。

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さらぬわかれ 10

桂が倒れてからすぐの頃、学校で栄子はあからさまな無視をされていた。
話しかけようとしても避けられ、時にはひそひそ「あの子に近づくと祟られる」と遠巻きに白い目で見られていた。

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さらぬわかれ 11

栄子はあの時の男の子とクラスメイトとして再会を果たした。

「君の名前は何ていうの?」
久しぶりに「祟り」以外の関心を示されたことに戸惑いつつ、
「池上…栄子。」
とだけ小さな声で答えた。すると、恒太はまっすぐ栄子を見て、
「栄子ちゃんか。これからよろしく!」
と、手を差し出してきた。

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さらぬわかれ 12

恒太と同じクラスになってから、栄子の世界の見え方が変わった。
はじめは他のクラスメイトとぎこちなかったけれど、恒太が栄子と一緒にいることで祟りが起きないことを証明してくれた。
栄子はクラスに溶け込むことが出来た。

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さらぬわかれ 13

(もしも恒太がいなかったら、私は誰も信じられないで生きてたんだろう。)
15歳になった今でも一緒にいてくれる恒太に、栄子は感謝の気持ちでいっぱいになった。

恒太と栄子は、テーブルを挟んで向かい合わせに座った。
「いただきます。」
先ほど出来上がったばかりの肉じゃがは、とても優しい味がした。

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