さらぬわかれ 1

「ただいま~。」
池上栄子は玄関の引き戸を開けた。木造2階建ての家にカラカラと音が響いた。
両親は働きに出ていて、不在である。

栄子は中学のセーラー服を着替えないまま、2階の南の部屋に向かった。
「お姉ちゃん、ただいま。」
そこにいるのは、8歳位の小さなコドモ。栄子は少し陰りのある瞳で彼女を見つめた。
お姉ちゃん、と呼ばれたそのコドモは、ベッドから上半身を起こし、こちらを見ているものの、人形のように表情はない。
「今日も、ずっと寝てたの?」
栄子が話しかけても、返事はない。

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