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広告業界は消滅するのか?広告はメディアから人へ

 メディアの変化に伴い、従来の広告が見られなくなってきている。この変化に対して、広告業界はどのように進化し、消費者にどのような価値を提供するのか?代表にインタビューを行った。


段階的に広告はなくなる?

ーー広告業界はどうなっていくと思いますか?

 昔から予想されている方がいますが、広告は減っていき、段階的に「広告業界」はなくなっていくと思います。

ーーサクラスはSNS広告のお手伝いもしているので、中の人から聞くと衝撃的ですね。なぜそう思われるのでしょうか?

 広告らしい広告は消費者から受け入れられなくなってきています。昔は娯楽としても広告は成り立っていましたが、娯楽の選択肢が増え、タイパを重視する世の中になっているので、不要なものは見ない、広告は早送りまたは飛ばす人が増えています。その結果、見る人が減り、広告自体が減っていき、最終的にはなくなっていくのではないでしょうか。

ーー確かに昔はテレビCMを飛ばすことができず、みんなが見ていましたね。気になる続きの前にCMが入ることも多く、早く進まないかな…なんてこともありました。

 テレビに関して言えば、無料で番組を見る代わりにCMを見る、Facebookなら便利な機能を使う代わりに広告を見る、というように、タダで良いものを使わせてもらう代わりに広告を見るという、いわば利益相反の構造でしたね。こういった構造がユーザー体験を妨げない形に変化していくと思います。

メディアから人へ

ーー広告がなくなると人々は商品やサービスの情報をどう得ていくと予想しますか?

 広告はメディア発信から「人」発信に変化していくと思います。いいものに出会った人たちが自分たちで宣伝し、ファンが広告の役割を担っていくでしょう。現在はインフルエンサーがPR案件を告知していますが、お金をもらって広告することが減り、「好きだから」ファンが布教して広げていく世の中になると考えます。

 既に中国ではメディアよりも人が影響力を持っていて、網紅(ワンホン)というインターネット上の有名人がECのマーケットに絶大な影響力を持っています。このように広告はメディアから人が伝達するスタイルへと変化していくでしょう。

ーー人が告知するスタイルですが、現在のインフルエンサーとはどう違うのでしょう?
 
 広告を出す時代にはメディア(宣伝場所)を購入していたのが、インフルエンサーを活用する時代、つまりそうした人にお金を払って宣伝してもらう時代というのが今ですよね。しかし、「広告的情報」は好まれなくなり、そのような発信では消費者からの支持を得られにくくなっています。「消費者に届ける何か」は、お金で買えなくなっていくと予想します。

 インフルエンサーはWEB2.0に属し、双方向のコミュニケーションで情報を告知しています。しかし、web3になると、分散型の情報伝達が主流となり、より質の高い確かな口コミが求められるようになると思います。井戸端会議のように「いいもの」の情報を自発的に発信しているコミュニティ、信頼性の高い口コミが相互に情報交換されるスタイルになるのではないでしょうか。

ーーweb3と井戸端会議。面白いですね。新商品を発表したい、情報を発信したい企業の気持ちは残る気がしますが、広告ではなくどう発信していくのでしょう?

 自社でメディアを通じて情報発信することは可能ですし、消費者の行動に影響を与えるのは広告だけではなくなると思います。例えば、株のようなものを買うことがもっと身近になり、消費者が自分が所有権を持っている会社の商品を選ぶ、宣伝するといった行動が増えるかもしれません。例えばキリンやアサヒといったビール会社はこれまで多くの広告を出し、ブランドイメージをアピールしてきましたが、今後は莫大な広告費をかけるよりも、消費者兼所有者が商品を宣伝してくれるようになるかもしれません。今でも飛行機に乗る際にJALとANAで自分が株を持っている方、マイレージを貯めている方の会社を選ぶ、という方はいるかと思いますが、それに近いイメージで、その人たちが宣伝も担っていきます。

ーー消費者の行動に影響を与えるものが変わるんですね。長期目線では「なくなっていく」と予想された広告ですが、消費者の変化に応じて現状ではどう変わっていくべきでしょうか。

 今後はもっと消費者目線で価値のある行動が重要になってくると思います。ファンが「布教しやすいもの」を提供する、ファンにとって付加価値のあるものを提供するなどですね。

オフライン広告のDX

ーーオンライン広告の話が続きましたが、オフライン広告はどうでしょうか?

 OOHとリテールメディアの話があると思います。OOH(Out Of Home)広告で言うと、例えば看板がオンライン化されて1PV、1再生いくらで販売できるようになってくると思います。スクランブル交差点のビジョンをクレジットカードで購入し、入稿して1時間後に広告が出る・・・なんて手軽に看板広告を利用できるかもしれません。

 リテールメディアの話だと、小売がメディアを始めることで、広告主は「消費者が広告を見て買ったか」のデータを取れるようになり、販促と宣伝の統合ができるようになります。例えば、大分の漁協がスーパーに関さばの広告を出し、その広告を見た人が関さばを買ったかがわかり、広告の効果を測定できるようになります。このあたりはメディアの話として別の回でお伝えしようと思います。

サクラスらしい広告づくり

ーー広告が減少していく中で、サクラスはどのように企業や消費者に貢献していくのでしょうか?
 
 商品とファンが出会う際に非効率な状況はまだ存在しており、そこに対してサクラスは大きく貢献できると考えています。創業当時から大切にしているのは、「オタクの人たちが知らないものを発見できる」という活動です。

 私自身も、まだ知らなかった良い商品に出会ったときに「こんな良い商品があったのか!別のものを買ってしまったよ」という経験を何度もしています。そうした発見によるQOLの向上を、もっと多くの人に提供していきたいと思っています。

ーー私は料理と育児において、先人たちの知恵と口コミをSNSで収集しQOLが向上しました。これは先ほど話題に上がったweb3の井戸端会議に近いかもしれません。こういう情報を広告が提供してくれると、とても嬉しいですね。

 そうですね。サクラスが関わった広告にも、コメントで「広告で知れてよかったです。購入しました」といった内容を頂きます。これが広告業界で一番いいことですよね。見て喜んでもらえる広告です。

ーー「オタクの人たちがまだ知らないもの」を発見できるようにするために、サクラスが特に力を入れている取り組みについて教えてください
 
 ファンに広げてもらう仕組みを作ることに力を入れています。いくつかの具体的な取り組みを紹介しますね。

ゲーム感覚のSNS診断: ファンがゲーム感覚で参加できるSNS診断を導入しています。結果を#付きで拡散しやすくするなど、楽しみながら情報を拡散してもらう仕組み作りをしています。

QRコード調査: 宣伝部や宣伝機能を持つ組織がファンをもっと深く知るためのQRコード調査を実施しています。これにより、ファンの興味や関心を把握しやすくなります。

 こうした活動を通じて、ファンとのコミュニケーションが双方向になるよう努めています。ファンが積極的に参加できる環境を整えることで、より効果的な情報発信を目指しています。ファンが知らないものを発見しやすくなると同時に、企業側もファンのニーズを理解しやすくなっています。

 

 単に商品を売る手段としての広告は消え、情報発信の中心が企業だった広告の時代から、消費者が中心となる時代へと変化している。消費者にとって価値のある情報を提供し、消費者が自発的に情報を発信し、共有したくなるような何かを提供する戦略が必要となると予想される。消費者主導の時代では、企業も個人が発信する情報も透明性と信頼性の高さが求められる。納得のいく関係性が築ければ、長期的なエンゲージメントが生まれ、従来の広告では成し得なかった質の高い双方向コミュニケーションから多くの利益が生まれていくのではないか。

(文/K.S.)

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