ロシアの憂鬱・類を見ないデリケートなピアノタッチによる珠玉の名演奏
ロシアに生まれたニコライ・オルロフ(Nikolai Andreyevich Orloff [26 Feb.1892 - 31 Mar.1964], Pianist) は、モスクワ音楽院でピアノをコンスタンチン・イグムノフに、作曲と対位法をセルゲイ・タネーエフに学んだ。ピアニストとしてデビューを果たした1912年には、作曲者自身の指揮でグラズーノフ「ピアノ協奏曲」の初演も務め成功を収めている。
ロシアの同世代ピアニストであるネイガウス、イグムノフ、ゴリデンヴェイゼル等は祖国に残りソビエト・ピアニストたちを育てたが、オルロフは英国に拠点を移し世界を舞台に演奏活動を続けた。
1920年頃にスクリャービンやショパンのピアノロール録音をAmpico社へ行うが、その後1930年代に入ってようやく英国デッカレーベルにレコード録音を開始する。繊細で優しい彼の持ち味はショパン演奏に適しており、12インチ3枚6面にエチュード、即興曲、ワルツ、そしてマズルカ、そしてお国もののチャイコフスキー「ピアノ協奏曲 第1番 作品23(全曲)」を録音した。ただしこれらは、演奏会で知るオルロフの魅力を伝えていないとのレコード評が残されている。確かにこの時期のオルロフのレコードは、かなり折衷的で柔軟さが欠けた演奏で、当時のオルロフの人気を窺わせるものではない。寧ろラジオ放送に残されたシューベルト「ドイツ舞曲」や、ショパン「子守歌」の断片にその片鱗がうかがえる。
しかしオルロフの本領は最晩年に訪れる。1960年代に入るとイタリアのマイナーレーベルに猛然とレコード録音を始め、ショパンのソナタ第3番と二つのバラード、幻想曲などの大曲 (SKRP33032)、そしてマズルカ選集、プレリュード集、ワルツ、ノクターンなど、かなり多くの曲を発売した。これらの録音はオルロフの耽美的で繊細な魅力を伝えることに成功している。
ロシア作曲家の作品を集めたアルバム (SKRP33031)はオルロフの最高傑作ともいえる出来栄えで、片面を費やしたラフマニノフ作品に於ける美しさは作曲家自身の憂鬱で激しい演奏とまた違う幻想的な色彩を披露している。また、裏面に配されたスクリャービン、リャードフ、プロコフィエフ、ショスタコーヴィッチ、カバレフスキーらの素晴らしい選曲による作品群も、類を見ないデリケートなピアノタッチによる珠玉の名演奏である。その他、フランクやラヴェルなどのフランス音楽まで残しており、レパートリーの広さを現在に伝えている。これらの奇跡的なセッションを終えたオルロフは、余命幾ばくもなく1964年に逝去したが、彼の残した晩年のレコード遺産はこれからも永く語り継がれていくことだろう。
収録トラック
01. ラフマニノフ:絵画的練習曲 ト短調 作品33-8
02. ラフマニノフ:前奏曲 ト長調 作品32-5
03. ラフマニノフ:楽興の時 変ホ短調 作品16-2
04. ラフマニノフ:前奏曲 嬰ハ短調 作品3-2
05. ラフマニノフ:前奏曲 嬰ト短調 作品37-12
06. ラフマニノフ:リラの花 変イ長調 作品21-5
07. スクリャービン:エチュード 嬰二短調 作品8-12
08. スクリャービン:ワルツ ヘ短調 作品1
09. スクリャービン:エチュード 嬰ハ短調 作品2-1
10. リャードフ:前奏曲 ロ短調 作品11-1
11. プロコフィエフ:束の間の幻想 作品22より10番、16番
12. プロコフィエフ:ガヴォット 作品32-3
13. プロコフィエフ:年老いた祖母の物語 Op.31-2
14. ショスタコーヴィッチ:三つの幻想的な舞曲 作品5-1 アレグレット
15. ショスタコーヴィッチ:三つの幻想的な舞曲 作品5-2 アンダンティーノ-アレグレット
16. カバレフスキー:前奏曲 ロ短調 作品38-6 アレグロ・モルト
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