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酒場にて

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MIDIレコードクラブでの連載ですが、こちらの方が読みやすいので、再掲載してみます。
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調布

調布

 ベーシストの松永孝義さんが亡くなって、もう三ヶ月以上の月日が経った。未だに、彼がこの世にいない事にそれほどの実感が無く、長い入院生活の後に戻ってくるのであろう、と言うような心持ちが捨てきれず(いや捨てたく無いのであろう)、そんな状態で彼にまつわる仕事を切り抜け、事実を受け入れる事が出来るようにもなってきた気がするが、すっかり季節は変わってしまった。とは言え、松永さんの事を書くと決めたものの、そう

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金沢

金沢

 大阪での二日間の公演終了後、楽屋から楽器と手荷物を持ち、地下街を抜け大阪駅に向かう。そろそろ帰宅ラッシュ時に差し掛かろうかという時刻だったが、思いのほか駅の混雑はみられず、スーツケースを引きずる我々には好都合だ。そしてホームは更に人がまばらだった。特急サンダーバードは湖西線、北陸本線を走り北東に向かう。我々が降りる金沢まで二時間半の道程である。

 そろそろ暗くなりかけるか、という冬の夕暮れ、寒

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松江(其の二)

松江(其の二)

 梅雨時に松江を訪れるのは二回目だったと思うが、水の都での雨という事であれば、旅の身の上、風情も感じるというものだ。しかも、今回は4日程の滞在でスケジュールも余裕を持って組まれているので、通常のツアーと比べると心持ちも些かのんびりめ、と言えるだろう。

 メンバーそれぞれ日本のいろいろな所からの松江入りだったので、私は一人、夕方の便で羽田から出雲空港へ飛んだ。着陸間際に雨は確認出来ず、例によって、

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嘉義

嘉義

 ここ数年、海外での仕事は無いが(昨年、上海万博のコンサートに出演依頼があったのだが、スケジュール合わず残念)、5年程前まではそこそこ海外の仕事も多かったのだ。今回は5~6年前の台湾ショートステイの話。

 クラリネット奏者の大熊ワタル氏率いるシカラムータでフェスティバル出演の為の台湾行き。だが、他のメンバーは既に台湾入りして(小編成でライヴもやったらしい)いるので一人で向かう事になる。CHINA

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百軒店

百軒店

 渋谷の百軒店(ひゃっけんだな)は学生の頃、割と良く行ったものだった。ブラックホークはまだ自分にとっては敷居が高い感じがしたが、数回は入店した事があるし、ホーカーズヴィレッジでは何度か先輩がやっているサザンソウルのバンドのライヴも観た。が、やはりよく足を運んだのがB.Y.G.か。とにかくここでは、気になるアメリカンロックの新譜は必ず聴く事が出来たので、よく行ったものだった。ある日発売されたばかりの

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東京

東京

 少しくらい地面が揺れたところで、酒は飲むのである。

 この日は速やかに打ち合わせを終えて、帰路につく夕方、駅に向かう途中の居酒屋に吸い込まれた。客はいない。店主の挨拶はなく、カウンター内で電話をしている。声が大きいので、話の内容はよくわかるが、どうやら、東日本大震災の影響で仕入れがままならないようだ。が、客に気づいたのか、すぐに大きい声で応対してくれた。
 カウンターに腰掛け、生ビールを注文。

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松江(其の一)

松江(其の一)

 ずっと、この街の事を書かねばならないと思っていた。

 松江市を訪れたのは過去5~6回だと思う。全て仕事で観光らしきものは特にしていないが、それでも、私にとってこの地は特別に落ち着く街の一つで、水の近さに独特の風情を感じるのだ。
 
 列車でここに降り立ったのは、多分一回だけでそれ以上の記憶がない。おそらく、米子からの移動だったのだろう。その一回以外は全て出雲空港から松江に入っている。天気がよけ

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東伏見

東伏見

 この2~3週間は自宅にいる事が出来れば、そのほとんどを制作作業に時間を費やしているのだが、ミックスダウンと言うこの作業、私の能力の所為と自宅作業場の設備の面から、捗っているとは言いがたい。もうこの方法で何枚ものアルバムを作っているにも関わらず、だ。そして、結局いつもどこかで行き詰まって数日作業を放棄する事も少なくない。締め切りが必須であれば、続けなければならないが、気分転換が必要な場合はそれを優

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室蘭

室蘭

 ああ、すっかりここのコラムも滞ってしまった。酒の方は滞る事無く飲んでいたのだが、全く書く暇がなかった。今でも書いている余裕は無いのだが、まあ、眠る前の落ち着く為のキーパンチだ。ここ数ヶ月いろいろなところで飲んでいるのだが、変わった事は無い。いつもと変わらず場所を変えてちびちびやっているだけだ。

 ひとまず、記憶が薄れないうちに、記しておこう。

 まずは室蘭。

 北海道の都市だ。面積が狭いの

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新幹線

新幹線

 この連載を始めてもう一年の月日が過ぎた。ああ、一年間よく飲んだものだ、と思っていたら、過労からか高熱を出し、丸二日寝込んだ。幸い外の仕事は無く、自宅作業を予定していたのだが、時間の余裕はまだ少しある。そして、先程ようやくビールを口にしたが、然程旨く無い。まだまだ胃腸は本調子ではない。まあ、一年目にして期せずして二日間の休肝日となった訳だ。

 さて、今までこの連載はタイトルを土地の名前にしていた

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京都

京都

 京都の新京極に「スタンド」と言う飲み屋がある。新京極なんて修学旅行生が行くところだろ、なんて思う方もいるだろうが、四条通りから新京極を入って割とすぐの場所にその店はある。

 この店を何故知る事になったのかは、もう覚えていない。が、新京極と言う場所柄、偶然通りかかった訳ではないとは思う。

 新京極の隣に寺町京極と言うのもあり、四条通りから入って行くその通りの右側にシガーバーがあるのは、随分前か

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東大和

東大和

 私が住む東京都下北多摩地区の自治体名はどうもはっきりしない。車で青梅街道を走る度に、その境界線には自治体名の標識が出ているのだが、都心寄りから、西東京市、東久留米市、東村山市、東大和市、武蔵村山市、等の名前が並ぶ。

 もともと、東京都下の多摩地区は三多摩とも呼ばれていた。北多摩郡、南多摩郡、西多摩郡の三つで三多摩なのだが、ほとんどが市になってしまったので、現在では、瑞穂町、日の出町、奥多摩町、

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福岡

福岡

 福岡ではいつも酔う。この街ではどうも程々に出来ないらしい。私は酔って記憶を無くす事はほとんど無いのだが、ここではその経験もある。おそらく、その開放感ともいうべきものが、自分の波長に合うのだろう。と言うか合いすぎるのか。

 ここ最近では、大名にあるスタンドバーBEM(ベン)がお気に入りの店の一つだ。打ち上げでさんざん飲み、宿がだいたい天神や大名付近という事もあり、ふらりと、と言うか、その入り口に

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福生

福生

 相模原でのコンサートを終え、帰路は国道16号線を選んだ。ちょっと遠回りだが、慣れ親しんでいるので、標識を確認する事はほとんど無く運転出来る。仕事の後でのんびり帰るには、うってつけだ。それに、かなりの空腹を感じていたので、久しぶりに八王子の長浜ラーメンに寄りたかった、という事もある。

 カーラジオをつける。最近はもっぱらAMで思いのほか聴き入る事が多かったのだが、この時間面白い番組は無く、おまけ

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