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たったひとつの願い事‥。。


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たったひとつの願い事‥⛄️🎄✨自作の物語の朗読youtu.be

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⛄️🎄✨⛄️🎄✨⛄️🎄✨


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「 しーちゃんただいまぁ」

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あ。この声は
ボクの大好きなりっくんだ


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ランドセルを置く間もなく
ボクを抱きよせ


スリスリ
スリスリ



真っ赤なほっぺ
冷たい手



寒かったね
おかえり‥


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ボクはこの瞬間が
大好きだ

.

「りっくん手を
    洗ったの?」



ママがキッチンから
覗き込む



「はぁい。しーちゃんちょっと
    待っててね」




りっくんは
ボクをソファに寝かせ
暖かい毛布をかけてくれた

.
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.



ボクが

この家に来たのは
りっくんが
産まれてすぐ


.

だから
どんなキミも
知ってるよ


.


夜泣きしても
ボクがいたら
すぐに泣き止んだこと



ママがボクを
「  汚れてきたわね‥」
と言うと


大粒の涙を流して

「 綺麗だもん 」と
言ってくれること




そして
それからは


ボクをお風呂で
ゴシゴシ洗って

干してくれること




おばあちゃん家へ
お泊まりするときも


必ずボクをリュックに
入れてこっそり
連れて行ってくれること


.


ボクはただの
白い熊のぬいぐるみなのに


キミからの愛情を
いっぱい
いっぱいもらって
過ごしてきたんだ


.

キミは
ぬいぐるみが
大好きだから



この家には
たくさんのぬいぐるみが
やってくる



その度に
ボクは心配だったんだ



ボクの
りっくんが
取られちゃう気がしてさ

.

ママは言うんだ
「 ベッドには
ぬいぐるみ一個だけにしてね」
って。



だから眠るとき
ボクは
いつもドキドキさ

.

でも毎晩キミは
迷うことなく
ボクを抱っこして


スリスリして
ぎゅ~ってして
一緒に眠るんだ
.
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だからね‥
神様‥
サンタさん


ボクの願い事
叶えてくれませんか



大好きなりっくんに
お礼が
言いたいんだ


もしボクに
この声があったなら



言葉が
あったなら



一番に
伝えたいんです




どうしても
どうしても‥



.
.


どうしても‥
どうしても‥

.
.


ボクは
毎日毎日
空を眺め
願い続けたんだ


.



そして
そんなある日
ボクの願いが
叶う出来事が‥。



それは
クリスマスイブの日の
こと

.



シャンシャン
シャンシャン


遠く遠くから
鈴の音が近づいてきて



そりに乗った
サンタクロースが
窓の外に
やってきて


ボクに一枚の
手紙をくれたんだ


.



  『   しーちゃんへ

       キミの願い事を
       叶えてあげよう


      短い時間だが
      男の子にしてあげよう


     ただしひとつ
     条件がある



     けっして誰にも

     自分が
     ぬいぐるみだと
    名乗ってはいけないよ


    もし
    名乗ったなら
    二度と元の場所には
    戻れないからね


    気を付けるんだよ🍀  


    サンタクロースより‥   』



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短い時間だけど
男の子になれるんだ

ボクは嬉しくなった

.

そして
クリスマスの日の朝


りっくんは
手袋をはめ
帽子をかぶり



「友達と遊んでくるね
     行ってきまーす」


ボクに手を振り
寒空の中

弾ける笑顔で
出かけていった

.


その瞬間
ボクのカラダが


男の子に
変わり



ボクの足は
気づいたら
りっくんを追いかけていたんだ


.


はぁはぁ‥


りっくん
りっくん‥


あ!いた!


公園でひとり
サッカーボールを蹴る
りっくんを見つけた


.


ちょうどそのとき


りっくんが
蹴ったボールが
ボクの目の前に

コロコロ転がってきて



ボクは
そのボールを思わず
キックした


.


「  ありがとう
     キミも一緒に遊ぼうよ 」


 
そう言うと

りっくんはニッコリして
ボクを見た




「 あ‥うん  」




ボクは
はじめて声を出した



震えるような小さな声

ボクって
こんな声なんだ‥

.

サッカーなんて
したことも
見たこともなかったから

ボクはボールを
蹴り返すだけで
精一杯‥。

.

転んだり
キックしそこねたり

りっくんが
蹴ったボールを

追いかけて
追いかけて


.

そんなボクを見て
りっくんが
笑って


ボクは
それだけで嬉しくて
心がぽかぽかしたんだ

.

キミと過ごす時間は
あっという間に過ぎ



「ごめんね
   ボクそろそろ行かなきゃ
   友達と約束してるんだ

   あ。ボクの名前は律
   キミの名前は?」





ボ、ボクは
ボクは‥キミの


そう言いかけた言葉を
飲み込み



「  ボクは‥

    しぃ‥ぃ‥


    椎木ハル ‥ハルっていうんだ 」



「あ。ボクの友達と
    同じ名前だね


    また遊ぼうねハルくん」


.


キミが手を振り



ボクも
手を振った

.


公園を出てすぐの

角を曲がって
走って走って



涙があとから
溢れてあふれて



ふりかえることが
できなかった


.

ただ
家までの道を
転びそうになりながら


走ってかえるのが
精一杯だったんだ

.



りっくん
りっくん




ボクは
ボクはね‥



ほんとは
言いたかった
伝えたかった



キミの白熊だよって
しーだよって。

いつもありがとうって



.

でも言えなかった
.

言えばキミと
もう二度と‥
逢えなくなる

.


言いたかった言葉を
心の中に
残したまま


ボクのカラダは

.

白い熊のぬいぐるみに
戻っていたんだ‥


.
.
.



「 ただいまぁ」


薄れてゆく
記憶の中で


りっくんの声

.

ボクのところに
一番にやって来て


いつものように
ぎゅーっと
抱き寄せ

そして言ったんだ

.

「あれ‥どうして
しーちゃん泣いてるの?」


.

ボクの瞳に
出るはずのない涙が

ひとしずく‥

.

頬を伝い
流れた


そんなボクの涙を
りっくんは
何も言わず

.

ただ
優しくそっと
拭いてくれた



.
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あのね‥りっくん


ボクはキミが
大好きだよ‥。。


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