田中沙紀子

科学と音楽とハンドメイドを愛する科学コミュニケーター。専門は分子生物学。テクノロジーを…

田中沙紀子

科学と音楽とハンドメイドを愛する科学コミュニケーター。専門は分子生物学。テクノロジーを扱っていても、頭の中はサイエンス。インクルーシブがおもしろい。

最近の記事

『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第10話・最終回)

ドラマ『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』第10話。最終回も、全盲・弱視の方向けに視覚情報を音声で補う解説放送の文字起こしをしてみます。 "自立とは、依存先を増やすこと"最終回をご覧になった方は、どんなメッセージを受け取ったでしょうか? 私は、"自立とは、依存先を増やすこと"が重要なメッセージだと感じました。これは、脳性まひの当事者であり、障害などの当事者研究が専門の熊谷晋一郎先生(東京大学先端科学技術研究センター・准教授)がよく使っているフレーズです。人はだれでも、他人

    • 『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第9話)

      ドラマ『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』第9話。今回も、全盲・弱視の方向けに視覚情報を音声で補う解説放送の文字起こしをしてみます。 マイノリティの意見は届きづらい第9話は、視覚障害者にとって、駅のホームドアがいかに重要かがトピックのひとつでした。そして、ホームドアは視覚障害者だけのためのものではないという話も紹介されました。たしかに、だれにとっても安全性が高まるのは事実。ですが、視覚障害者にとっては、より日常的に命に関わる深刻な問題です。にも関わらず、マジョリティにとっ

      • 『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第8話)

        ドラマ『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』第8話。今回も、全盲・弱視の方向けに視覚情報を音声で補う解説放送の文字起こしをしてみます。 道路を渡る手がかりは、音と勘今回は、横断歩道を渡るとき、信号が見えない人が周りの音を頼りに渡っていることが紹介されていました。これは、盲導犬を連れていても同じ。白杖を持っている人や盲導犬を連れている人がいたら、信号の色は見える人が教えてあげると、みんなが安心して渡れます。 『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』第8話解説放送さて、ここから

        • 『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第7話)

          ドラマ『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』第7話。今回も、全盲・弱視の方向けに視覚情報を音声で補う解説放送の文字起こしをしてみます。 技術への期待と、技術の限界今回は「夢」がテーマでした。その中で「見えない人が見えるようになる技術ができる」という夢が語られました。人工視覚と呼ばれる技術で、実用化を目指した研究開発が進んでいます。 ろう・難聴者向けには、人工内耳という技術があり、すでに実用化されています。ですが、人工内耳をつければ聴者と同じだけ音が聞こえるようになるわけで

        『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第10話・最終回)

          『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第6話)

          ドラマ『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』第6話。今回も、全盲・弱視の方向けに視覚情報を音声で補う解説放送の文字起こしをしてみます。 伴走用のロープで伝わるもの第6話は、視覚障害者が走ることと、そのための晴眼者による伴走がお話の軸でした。私は経験がないのでどんな感覚なのか、体感としてはわからないのですが、伴走用のロープ(通称:絆)からはかなりの情報が生々しく伝わるらしいです。東京工業大学の伊藤亜紗先生が、著書やインタビューでも触れているので、ご興味があればぜひ。 『恋で

          『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第6話)

          『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第5話)

          ドラマ『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』第5話。今回も、全盲・弱視の方向けに視覚情報を音声で補う解説放送の文字起こしをしてみます。 インクルーシブな取り組みはみんなのもの第5話では、見えにくいユキコがバイト先で提案した、ユキコ自身が働きやすくするための工夫によって、他の人の仕事にもメリットがあったことが描かれていました。多様な特性を持った人がいて、それぞれが意見を言えるコミュニティであることの強さを示していたと思います。 『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』第5話解

          『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第5話)

          『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第4話)

          ドラマ『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』第4話。今回も、全盲・弱視の方向けに視覚情報を音声で補う解説放送の文字起こしをしてみます。 第4話は、「合理的配慮」について考えさせられました。見えにくいことでこなすのが難しい作業について、「見える人と同じようにやらせる」も「できないんだからやらせない」もちがう。「どう工夫したらできるようになるか」を考えて環境を整えることが大事ですね。 『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』第4話解説放送 さて、ここからは解説放送の文字起こしで

          『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第4話)

          『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第3話)

          ドラマ『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』第3話。今回も、全盲・弱視の方向けに視覚情報を音声で補う解説放送の文字起こしをしてみます。 この回で出ていた視覚障害関連のトピック前回までと比べて、視覚障害関連の情報提供は少なかったような気がします。明確に盛り込まれていたのは、こんなところでしょうか? 料理をするとき 黒いまな板だと、食材が見えやすくなります。ユキコは、包丁を使うとき、包丁と逆の手にはガードをつけて、手を切らないようにしていました(どのくらい一般的な道具なんだろ

          『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第3話)

          『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第2話)

          先週から始まったドラマ『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』。第2話も、全盲・弱視の方向けに視覚情報を音声で補う解説放送の文字起こしをしてみます。 この回で出ていた視覚障害関連のトピックまずは、さり気なく出てくるものも、しっかり紹介されているものも含めて、視覚障害関連のトピックを簡単に挙げてみます。 シャンプーのボトルのギザギザ シャンプーとコンディショナーのうち、シャンプーのボトルだけ側面やプッシュする頭の部分にギザギザがついています。触るだけで、シャンプーかコンディシ

          『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第2話)

          『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第1話)

          2021年10月から、弱視の女の子が主人公のドラマ『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』がスタートしました。このドラマは、見えない・見えにくい人も楽しみやすいようにと、シーンの視覚情報(登場人物の表情、シーンの切り替わりなど)を補う解説放送があります。テレビでは副音声で聞けるようですが、見逃し配信のTVerでも解説放送バージョンを視聴することができます。 解説放送でどんな情報を補っているかを勉強する良い機会だと思ったので、解説放送の内容を文字起こししてみます。適切な情報保障

          『恋です!』 解説放送では、何を説明している?(第1話)

          みんなが真似して「つくり手」になれれば、多様なニーズが満たされる

          落合陽一さんの研究室で、手を使わずにドアを開けるツールが3Dプリンタを使って作られました。このツイートで見かけた方も多いかもしれません。 この足で踏んでドアを開けるツールを作るためのデータはGithubで公開され、だれでも参照できます(https://github.com/DigitalNatureGroup/FootKnob)。いろんな人が触るドアノブを触ることなくドアを開けられるなら、感染予防にも良さそう! あったらうれしい! と、みなさん感じるのではないでしょうか。し

          みんなが真似して「つくり手」になれれば、多様なニーズが満たされる

          それって効果ある?(それってRCT? というとツウっぽい)

          「まだ出回ってないんだけど、このA薬を飲むと病気が治るらしいよ」 こう聞いて、あなたはA薬の効果を信じますか? うーん、これだけの情報だと、いかにも怪しいですね。多くの方は疑いの目を向けるのではないでしょうか。では、次の場合はどうでしょう? (有名人)「A薬を飲んだら、体調が良くなって、本当にこの薬のおかげです」 これを聞いて、あなたはどう思うでしょうか? 「そうか、A薬のおかげなんだ、治ってよかったね! 」なんて思った方もいるかもしれません。もちろん「治ってよかったね

          それって効果ある?(それってRCT? というとツウっぽい)

          コロナ禍のいま、手探りの科学コミュニケーション

          情報発信は、タイミングも重要。ということで、コロナ禍の中で行ってきたのが、ニコニコ生放送「わかんないよね新型コロナ だからプロにきいてみよう」です。 感染症対策のプロ(国立国際医療研究センター国際感染症センター・堀成美さん)と、ときどきお医者さんなどのゲストと、私たち科学コミュニケーターで、4/1から月〜金は毎日配信しています。 ※下のリンクは5/21放送回。ニコ生の未来館チャンネルに、すべての放送のアーカイブが並んでいます。無料で視聴できます。 本当に「わかんないよね新

          コロナ禍のいま、手探りの科学コミュニケーション

          「科学コミュニケーター」ってなんだ

          こんにちは、科学コミュニケーターの田中沙紀子です。 …と自己紹介しているのですが、「科学コミュニケーター」っていったいなんだ? 私はいつも「科学と市民をつなげる橋渡しをしています」と言っています。が、これもよくわからないよなあと思います。と思いつつ、橋渡しという漠然とした言葉を使うのは、それだけ守備範囲の可能性が広いから。科学の解説をするのもお仕事、研究者の話を伝える場をつくるのもお仕事、その話を専門家でない人がわかるように伝えるのもお仕事、科学についてみんなに考えても

          「科学コミュニケーター」ってなんだ