それって効果ある?(それってRCT? というとツウっぽい)
「まだ出回ってないんだけど、このA薬を飲むと病気が治るらしいよ」
こう聞いて、あなたはA薬の効果を信じますか? うーん、これだけの情報だと、いかにも怪しいですね。多くの方は疑いの目を向けるのではないでしょうか。では、次の場合はどうでしょう?
(有名人)「A薬を飲んだら、体調が良くなって、本当にこの薬のおかげです」
これを聞いて、あなたはどう思うでしょうか? 「そうか、A薬のおかげなんだ、治ってよかったね! 」なんて思った方もいるかもしれません。もちろん「治ってよかったね!」に異論はありませんが、これは本当に「A薬のおかげ」なのでしょうか?
A薬のおかげ? みんなに使える薬?
もしかしたら、A薬を飲まなくても自然に治っていたかもしれません。薬を飲んだのだから治る! と信じることで体調にいい影響があったのかもしれません(プラセボ効果またはプラシーボ効果といいます)。
また、その有名人に効果があったとしても、もしほかの人には効かないのであれば効果が認められた薬とはなりません。副作用も気になりますね。
図1. だれかがA薬を飲んで病気が治った! といっても、それは薬のおかげなのかはわからない。また、他の人にも使える薬なのかはわからない。
したがって、ある一人の人が薬を飲んでみただけでは、その薬に効果があるかどうかを判断することはできません。では、「薬の効果がある」と示すためにはどうしたらよいのでしょうか? 先ほど挙げた点をクリアするためにはそれぞれ、次の図2のように考えられます。
図2. 「薬の効果がある」というには……
・薬を飲まなくても治ったのでは? →薬なしの場合と比べよう
・効いた気になっただけでは? →本物の薬を飲んだのかわからなくしよう
・他の人にも効くの? 副作用は? →たくさんの人で、副作用も含めて調べよう
このように、きちんと設計された試験を行い効果が認められると初めて「効果がある」ということができるのです。もう少し詳しく見てみましょう。ここからが、タイトルに書いた"RCT"という言葉の話です。
「効果がある」というためのキーワード
RCTとは、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial)のこと。そう、「ランダム化」というのが大事なキーワードなのです。加えて、「プラセボ対照」、「二重盲検」という言葉も登場します。では、これらのキーワードはどういう意味なのか、そしてきちんと設計された試験とはどういうものなのか、見てみましょう。
図3. 「効果がある」というための試験デザイン。重要なキーワードは「ランダム化」、「プラセボ対照」、「二重盲検」
まずは、試験の対象になる人をたくさん集めます。そして、その人たちを2つのグループに分けます。片方は本物の薬を飲む介入群、もう片方は偽物の薬(プラセボ)を飲む対照群です(「プラセボ対照」)。このグループ分けのとき、2つのグループにさまざまな偏りがないようにランダムに分ける「ランダム化」が重要なポイントのひとつです。たとえば、介入群に薬を飲む前から症状が軽い人ばかりが集まっていたら、薬の効果で症状がよくなったのか、軽かったから治りやすかったのかがわからないですよね。そんなことにならないように、ランダム化をする必要があるのです。また、もうひとつのキーワードが「二重盲検」です。これは、試験の参加者だけでなく、参加者の経過を見る医師も、だれがどちらのグループに割り振られているかを知らない、ということです。医師だって、「この人は薬を飲んでいる」と知っていると「きっと治るはず」と期待して症状の観察をしてしまい、実際よりも改善しているように評価してしまうかもしれません。そんなことがないように、医師も知らない状態にする二重盲検の試験が理想的です。そして、試験の結果、プラセボ対照群と比較して介入群のほうが良い影響があれば、「A薬に効果がある」ということができます。このとき、どんな副作用が起きるかを同時にチェックすることも大切です。
このように二重盲検でプラセボ対照群を置いたランダム化比較試験(RCT)での結果が、科学的な信頼度の高いエビデンスです。実際に、薬を国に承認してもらうためにヒトを対象に行う試験である治験では、基本的にこうした試験設計がされています。
なので、「これ、効くらしいよ」といわれたら、「ほんとに効果があるっていえるの?」よりも一歩踏み込んで、「それってRCTのデータ?」「 プラセボ対照置いてる?」「 二重盲検で見てる?」 と返すと、ツウっぽい。
※ただし、嫌われない言い方を心がけるとよいでしょう!
*この記事の内容は、ニコニコ生放送「わかんないよね新型コロナ だからプロにきいてみよう」でもお話ししています。
5月11日放送「テーマ:アビガンは治療薬になる?」(今回の話は08:18〜)
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