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あらすじ

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文楽のお芝居のあらすじをお話ししていきます。
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心中宵庚申[現代語版]1・近松門左衛門原作

心中宵庚申[現代語版]1・近松門左衛門原作

1.

 田を干すために水を引く。落し水の時期である。山城の上田村に暮らす大百姓、島田平右衛門は去年の秋に妻を亡くし、今は病に伏せっていた。上の娘のかるは婿をとって家にいる。下の娘の千代は大坂へ嫁にいった。
「今朝から仕事がよく捗った。お竹、お鍋、ちょっと休もう」
 台所で働いていた下女たちはひと休みに思い思いに立っていった。
「台所に人がいないやないの」
 かるの夫平六は新田開きの訴訟のため京へ

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心中天網島、道行の道のりを辿る。大阪が水都である理由はなんだ?【近松門左衛門】

心中天網島、道行の道のりを辿る。大阪が水都である理由はなんだ?【近松門左衛門】

道行とは
世話物の道行

近松門左衛門作「心中天網島」、主人公の治兵衛と小春が心中に向かう場面は「道行」といって、全編に渡って節付けのされている文章を語ります。

曽根崎心中の「天神森の段」も同様で、心中に向かう場面で普通の芝居の形式では陰鬱になりかねないところを、地の文章も台詞もほとんどに節をつけて、かつ大勢で語り、死にに行く場面でありながら美しく聴いていただく仕組みになっています。

世話物の

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大序【絵本】仮名手本忠臣蔵

大序【絵本】仮名手本忠臣蔵

鎌倉に足利尊氏の弟の足利直義による鶴岡八幡宮の造営を記念して、足利直義と高師直が来ていました。

ご馳走の役人は桃井若狭之助、塩谷判官です。

さて、足利尊氏が新田義貞を討ち滅ぼしたことから、新田義貞が使っていた後醍醐天皇から賜った兜を鶴岡八幡宮に納めようということなのですが、なにせ戦場から持ち帰った兜、どれがどれか分かりません。

そのようなわけで、もともと新田義貞のもとで働いていた塩谷判官の妻

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恋女房染分手綱「道中双六の段」あらすじ

恋女房染分手綱「道中双六の段」あらすじ

恋女房染分手綱

道中双六の段

丹波の国、城主の由留木殿のお湯殿子である調姫は年月が経つのも早いもので十二歳になった。

かねがね約束していた江戸の入間殿への婚礼が正式に決まり、今日はその嫁入りの旅立ち当日、城内は忙しく賑わっていた。

江戸から迎えの本田弥三左衛門という家老が、待ち合わせの朝の九時を前にして訪れていた。

「それでは、お供が揃ったら若年寄から出発なされ。わしはしんがりをつとめる

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