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【青ブラ文芸部】あなたへの5つの質問(Q.2)


素敵な質問、と言うかお題を見かけたので、小説にしてみました。
今後、他の質問を使ってまた書きたいなあ。


Q.2
どんなに言葉を尽くしても、結論が出ないであろう哲学的なテーマについて語り合うことは、時間の無駄だと思いますか?それとも有意義だと思いますか?


「なあ、東はさ。人間って何で生まれてくるか分かる?」
「……はぁ」
「あー、出た出た。東の『こいつ馬鹿か?』顔」
「思ってねぇ。呆れてるだけ」
「それを世間一般では思ってるって言うんだよ」

 図書室。幼馴染の山本が机に頬杖をついて笑った。そして俺が溜め息を吐きながら話題を流そうとするのが気に食わなかったのだろう。山本は俺が開いていた本をひょいっと奪い、「まだ議論は始まったばかりです」と笑う。
 分かると言うとまるで以心伝心のようで非常に不本意だが、幼馴染故にこいつの考えは手に取るように分かる。そして暇を潰す為に野球部に顔を出す山本と、日がな一日本の虫をしている俺とでは身体的に差がある。奪われた本を力ずくで取り返すのは困難を極めるだろう。
 仕方がないと全身で表しながら、眼鏡を外して目を閉じ目頭を揉んだ。

「で?人間が何で生まれるかって?」
「そうそう」
「んなもん、何でも何もないだろ。親がセックスをする、受精する、出産する。それ以上でもそれ以下でもない」
「はー、今東の嫌なとこ全部出てたわー」

 何が気に食わないのか、山本は眉間に皺を寄せた。「あーあ、ねぇわー」と呟き、また頬杖をつく。それに思わず口を飛び出した舌打ちが山本の眉間の皺を深めた。「お前ほんとそう言うとこな」と俺を指さしては、まだ本を返す気のない山本に再度舌打ち。

「だから東は女子にモテねぇの」
「うるせぇ。この間フラれた分際で」
「うっせ」

 突かれたくない腹を突かれたのか、山本は少し口を尖らせながら話題を本筋へと戻す。何故人間が生まれてくるのか。そんな答えのない議論へと戻る。窓の外では野球部の声が響いていた。

「そもそも答えあんのかよ。ねぇだろ」
「今答えがないからって、どこにもないとは限らないだろ?」
「限らねぇけど、あるかどうかも分かんねぇ答えの為に議論とか無駄だろ」
「無駄こそ人生の醍醐味じゃん」

 格言を言った。名言を言った。そんなしたり顔の山本に再三に渡っての舌打ちが飛び出す。山本の言わんとする事は理解が出来るが、その議論を今この場で俺達がする事に意味を見出せない。意味のない事は時間の無駄。無意味だ。
 だがそれをこいつに説いたところで、「でもさ」と別角度からの射撃がくるだけ。それも幼馴染として、分かっている。誠に不本意極まりないが。そう思考をまとめて、「そうだな」と適当に相槌を返してふと、山本のすぐ側に置いてある本が目に入った。随分と無駄の省かれたシンプルなモノクロの表紙が印象的で、俺が一冊目を読んでいた時に山本が読んでいた本だと記憶から掘り起こす。
 その表紙をよく見てみると、「人間とは無駄の塊」と言ういかにも哲学的なタイトル。

「……山本、お前いい加減その何にでも影響される性格直した方がいいぞ」
「あっ、お前見たな!?」
「見られたくねぇならせめて表紙を下にして置けよ。はあー、お前マジでいつか騙されるわ」
「その時は東に相談するからモーマンタイ」
「うっせ」

 のんきな山本の笑った顔に、四度目の舌打ち。結局、当然人間の生まれてくる理由なんて答えは出ず仕舞いだが、この議論でひとつだけ答えが出た事がある。
 いつかに備えて法律関係を少しは齧っておく事だ。



こちらも、年末年始の隙間時間で是非!


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