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空想日記

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あなたの知る私ではない『誰か』から届くメッセージ。日記のようで、どうやら公開して欲しいみたいだったのでここで。ちっぽけな世界のちっぽけな私のここから、私の元に届く誰かからの日記。…
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#物語

藤の水鏡

藤の水鏡

新月の夜、藤棚の下の水鏡を覗くと月が映っていることがある。
そんな晩は毎回、不思議な景色を覗き見ることができる。

それは私の、僕の、誰かの、あの子の、彼の、そしてあなたの物語である。
本当にあったかも分からないし、これから起こるかも分からない、実はそんなこと起きてなくて、気のせいだったかも。

けれどそのどれもがみんな、大切な思い出の一つなのだと私は思う。

その世界では、夕暮れは緑色だ。
鮮や

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魔法使いと青年。

魔法使いと青年。

2.
僕の話を聞いてください。
あなたの話も聞いたのだからいいじゃないですか。

僕は、そこそこ長く生きてきました。ええ、見た目以上にね。
けど、あなたと知り合った時僕はそれなりに子どもで幼くて無知でした。

あなたは路傍に転がる小石みたいな僕を気まぐれに拾って可愛がってくれました。
僕はその頃、人間にも魔法使いにも誰もかもに愛想を尽かして、生きる気力も何もなくて、どうにかしようと思えば出来たはず

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夜明けのカラス

夜明けのカラス

レースのカーテンの隙間から、金星が見える。
眩しい光が夜の闇を縫うように、私の部屋を淡く照らす。

白いカラスが黒のカーテンを切り裂くように飛んでった。
太陽は、かつてのように彼の翼を燃やすのか。
その日になるまでまだわからない。
その時がくるまで誰も知らない。

白いカラスの羽がハラリ、舞い散るように落ちてきた。
私の瞼を掠めて落ちて、雪に溶けて消えてった。

薄明るい淡い光を、雪と、羽が反射し

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片っぽのサンダル

片っぽのサンダル

穴の空いたバケツで縁の下を除いたら、サンダルの妖精が顔を覗かせた。
サンダルの妖精はつま先の空いてる部分をパカパカさせながら、つっけんどんに聞いてきた。

『おいおまえ!おれの相方見たことない?』
そのサンダルは、片っぽだけだった。
その顔がなんだか凄く見覚えがあって、でもどうしても思い出せないもんだから暫く黙り込んでいたらまた更に大きな声で怒鳴られてしまった。

右足のサンダル(略してミギサン)

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ぱちぱちと

ぱちぱちと

少しだけ空気の乾いた夕方に、ベランダに出て焚き火をする。
焚き火って言ってもそんな大したものじゃない。というより、あんまり本格的にやりすぎると煙やら何やらで色々大変なことになってしまうので。
紙コップとか割り箸とか、ちょっとしたゴミを燃やしてみる。
あとはその辺で拾ってきたよく燃えそうな枝。松ぼっくりはよく燃えるので燃料になる。

ライターで火をつけて、ちょっとずつ火を育てていく。
消えないように

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シルクの海

シルクの海

キャンドルを焚いた。ゆらめく小さな炎と染み込んだアロマの香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
開け放たれた窓から吹き込む優しい風に揺れるハンモックを素通りしてベッドに倒れ込む。
薄暗い部屋はさんざ強い光を浴びた瞳をぼんやりと緩めていく。
柔らかいマットレスに沈み込む。深く、深く。
どこまでも、深く。

夢を見た。変な夢だった。
私は随分と大人になっていて、それで今よりもずっと軽い身体だった。
明け方の道

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手折った花

ねむくてねむくて、ねむいのうみに溺れてしまいそう。
ああ、このまま溺れられたらどれほどに幸せなのだろうか。
無理矢理に体を覚醒させることも、かといってそのまま意識を手放すこともしないで今は、ただまどろみの最中に揺蕩っている。

手折った花が、枕元で香っている。
朝よりもいくばくか萎れた様子に、私は少しだけ見ないふりをした。
どうか明日まで、持ってくれればそれでいい。

明日の朝、目が覚めた時一番に

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黒曜石の花

黒曜石の花

黒曜石の花が咲く。咲いた花はひらり散って、地面に落ちて砕けていった。

僕はその砕けた欠片を、拾い上げて飲み込んだ。
飲み込んだ欠片が、すぅっと溶けて消えていくのを、お腹の中で感じていた。

君がくれた花。黒い石の花。君が咲かせた花。僕が壊した花。
ばらばらになった花びらは、もう二度と元に戻ることはない。
粉々に砕けた石は、もう二度とくっつくことはない。
途切れた縁が、再び結ばれることは、

もう

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とある羊飼いの話。

とある羊飼いの話。

羊飼いの青年は、今日も羊を追いかける。
星座の羊は頑固者。中々素早く動いてくれない。
早くしないと夜が明けて、狼たちがやって来るっていうのに。

夜空の星屑を掃除しながら、相棒コニーと羊のお尻をおいかけまわす。
時々迷子になった子羊を探して、夢の中やらコットン畑の中やらを探検したりもしてみる。

羊飼いの青年は、羊の背中に跨って、砂漠の海をゆっくり旅する。
かの牧草地を目指して進もう。
歩き疲れた

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ため息ついてさ

ため息ついてさ

うまくいかなくて、へこむことたくさん。
自分がちっぽけに見えてくる。
誰かと何かを比べて見ても、何も代わりはしないってのに、いつまで経ってもそこから抜け出せないまま、私は今日もうずくまる。

上を見よう。なるべく上を。
涙なんてどうせ止めても溢れるんだから。
せめて空でも見ながら泣いてやろ。
見上げた空は多分月が綺麗で、星が綺麗で、朝焼けが綺麗で。
いつの間にか泣いてたことも忘れて見惚れているだろ

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いまのこと。

いまのこと。

あした、楽しみなことがあります。
緊張で、眠れない気もします。
早く帰って眠りたいのに、よりによって電車のなかで缶詰です。
運の巡りが私の後ろ髪引っ張るみたいに、ハプニング運んでくるの。
もうこれでなんどめ!なんて叫んでいても仕方ないから、今日のこと日記にでもしてなきゃやってらんない。

ねえねえ、あなたの今日はどんなでしたか?
あなたの明日は楽しみですか?それとも不安ですが?それとも、それとも、

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心地の良い悪夢

心地の良い悪夢

眠れないんです。全然、全然眠れないんです私。
何をしても、何をやっても、どう頑張っても眠れない。どうしたら眠れるのか、どうやったら眠りにつけるのか、そんなこと考えて一日中、無駄に時間を過ごします。

巷で聞いた快眠方法、手当たり次第試してみても、穏やかに眠れることはなく、病院で出された錠剤を、バリボリ砕いて飲み干したって、安らかに眠れることもなく。

あぁ、どうしたら私は穏やかに、緩やかに、眠りの

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カスタード・バニラ・クリーム

カスタード・バニラ・クリーム

カスタードクリーム、蕩けて咲いた。
バニラの香り、夢が散る。

甘い甘い、溶けちゃいそうだ。
歯が浮くような甘さがしみる。
僕のワイシャツに染みを作る。
君は悪戯っぽく笑って、それから戯けたようにスプーンでそれをすくって口に運ぶ。

一口で飲み込まれたカスタードクリーム。
鼻につく甘さ。
忘れられない甘さ。
柔らかい、その触感。

カスタードクリーム、甘すぎて。
くらりくらくら眩暈した。

黒いス

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きみ去る夜よ

去る、さよなら、いかないでが言えなくて。
はしれ、このまま、見たくないものすっ飛ばして。
さけぶ、声を、喉の奥で飲み込んで。

君はいない、もういない。もしかしたら最初からいなかったのかも。
ここにいない、もう見えない、あの後ろ姿さも今はとうに。
聞こえない、君の声が、もう僕の耳には届かなくて。
笑えない、笑ってくれよ。この惨めな僕をほら。

心なんていつも自分勝手。
勝手に期待して、期待した分だ

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