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【ミステリーレビュー】准教授・高槻彰良の推察8 呪いの向こう側/澤村御影(2022)

准教授・高槻彰良の推察8 呪いの向こう側/澤村御影

澤村御影による民俗学ミステリーシリーズ第八弾。


内容紹介


年末、憂鬱な気分で実家に帰省した尚哉。
複雑な気持ちを抱えながらも、父と将来の話を交わす。
翌日、散歩に出た先で、尚哉は小学校時代の友人の田崎涼と出会う。
何気なく民俗学研究室や高槻の話をすると、後日高槻の元に涼の兄から相談が。
勤務先の小学校で「モンモン」という正体不明のお化けの噂が立ち、不登校の児童も出ているという。
怪異大好きな高槻は喜ぶが、その小学校は苦い思い出が残る尚哉の母校で――。(第一章 押し入れに棲むモノ)

「幸運の猫」がいるという旅館に、泊まりがけで出掛けた高槻、尚哉、佐々倉。
何故かスキーをすることになり、大いに戸惑う尚哉だが、高槻と佐々倉に教えてもらい、何とか上手く滑れるように。
休憩所で宿泊客たちと歓談していると、うち一人が「昔会った雪女を探しに来た」と言い――?(第三章 雪の女)

夢で死者に会う!? 雪山で高槻と尚哉が見たものとは――。
異界に魅入られた凸凹コンビの民俗学ミステリ、未来を望む第8弾!

KADOKAWA



解説/感想(ネタバレなし)


童謡「かごめかごめ」にまつわる都市伝説が転じて、実際に怪異の目撃者が複数発生した小学校。
その発端は「かごめかごめ」を歌うと"モンモン"が来るという、後に不登校になった生徒の発言だった。
正体不明の"モンモン"の謎を探る「押し入れに棲むモノ」、死んだ旧友と仲が良かったグループのメンバーが次々に不幸に見舞われる「四人ミサキ」、"幸運の猫"を探りにスキー旅行に出かけた高槻たちが、過去に雪女に助けられたという青年に出会う「雪の女」の3編を収録。

いくつか"本物の怪異"にも触れてきた高槻&尚哉。
それでも怪異を求める探求心が枯れない高槻には頭が下がるところである。
さて、そうなってくるとシリーズに新たな楽しみ方が生まれてきた。
どこからが怪異で、どこまでが人間か。
ホンモノが出てきた、だから何でもアリ、とはなっておらず、ミステリーの醍醐味はしっかり残っている。
また、前作で「憧れの作家は人間じゃありませんでした」とのクロスオーバーが図られたことで、怪異の仕業であっても事件化が可能な世界観に。
駆け引きの要素も出てきて、出来ることが増えた印象だ。

相変わらずストーリーが目覚ましく進んだという実感はなく、前巻から引き続き、通常回を継続しているイメージ。
ただし、高槻&尚哉の家庭環境における深掘りと、少しの改善が見られたのは進捗と言っていいのかな。
再登場してくれそうなサブキャラも増えて、前巻ほどの停滞感はなかった。
彼らの登場が、今後に繋がる伏線であると面白いのだけれど。



総評(ネタバレ注意)



「押し入れに棲むモノ」は、過去にも似たような話があったな、と思いつつ、最後に当時では出来なかったオチをつける。
こういうのが著者が書きたかったプロットなのだろうな、と。
都市伝説や怪談というテーマを踏まえれば、小学校という舞台が複数回登場しても違和感はないし、彼らのフィールドワークは、蓋を開けてみれば同じような出来事ばかりだったりするのかもしれない。
ただし、この章では尚哉が実家に帰る描写があり、そこから旧友との再会も果たす。
インパクトは薄めだったが、振り返ったときに重要な回だったとなれば良いのだけれど。

「四人ミサキ」では、高槻の実家の元家政婦が登場。
高槻にとって味方寄りの人物として描かれており、無邪気に信じて良いかは見極めが必要だが、こちらでも家族方面での事情がひとつ明らかになる。
こちらも、呪いの正体を突き止める話としては既視感があり、平凡の域を出ないのだが、犯人の不気味さは作中随一。
ヒトコワ系のエピソードとして、解決してなお背筋がゾッとする話だったのでは。

そして、「雪の女」。
「幸福の猫」にまつわるエピソードかと思いきや、がっつり雪女が登場。
怪異が人間に溶け込むためのルールも語られ、いよいよ、怪異は人間界に溶け込んでいるとう前提が明示された形だ。
親子がテーマとなっていて"人魚"と被るが、ふたつ重ねることで怪異の中に人間味を見出すことができる。
ちなみに、佐々倉に訪れる幸運は、別途描かれるのだろうか。
ジュースの当たりでおしまいなのかしら。

3つとも、初期の話を現在の設定でブラッシュアップ、といった感覚。
マンネリととるか、安定感ととるかは解釈次第だが、読んでいて心地良いのは間違いない。
そろそろ大きく動き出しそうな匂いはしてきたかな。

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