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【ミステリーレビュー】准教授・高槻彰良の推察4 そして異界の扉がひらく/澤村御影(2020)

准教授・高槻彰良の推察4 そして異界の扉がひらく/澤村御影

准教授の高槻と助手の学生・深町を主人公とした民俗学ミステリーシリーズ第四弾。


あらすじ


進級し大学2年生になった深町尚哉。
ある日、高槻が運営するサイト"隣のハナシ"に、建築事務所で働く女性から怪事件の相談が寄せられた。
事務所でとある余興をした4人に、次々と不幸が訪れる不気味な事件の真相に迫る「四時四十四分の怪」。
"江の島の海に人魚が出た"という週刊誌の記事につられて、高槻は佐々倉、深町とともに江の島に向かう計画を立てる。
そこに、イギリスから仕事の関係で日本に帰国していた高槻の叔父・渉が合流。
結局、4人で調査に向かうことになるが、途中で立ち寄った場所で「お母さんは人魚になった」と訴える少年に出会う「人魚のいる海」。
高槻が渉とイギリスに住んでいた頃の話、「【extra】それはかつての日の話2」を含む、全3編が収録されている。


概要/感想(ネタバレなし)


大きく進んだように見えないのだけれど、確実に必要な情報が出揃ってきているといったところで、滑らかに展開している本シリーズ。
今作では、特に"あちら側"の設定についての深掘りに力を入れた印象。
この手の"異能”を持つキャラクターは、主人公のライバルであったり、あるいは犯人であったり、センセーショナルに登場することになるのがセオリーなのだが、何でもない日常に紛れ込んで出てくることが、かえって妙なリアリティを生んでいたようにも思う。

「人魚のいる海」は、少し特殊な内容になっているので、正統派のミステリーとして読める中編は「四時四十四分の怪」のみ。
謎解き要素に楽しみを見出している読者層には、少し物足りないのかもしれないが、短編の「【extra】それはかつての日の話2」は、前巻に収録された「【extra】それはかつての日の話」よりもミステリー色が強まった形。
総合的に、バランスはとられていると言えるだろう。

もっとも、この「四時四十四分の怪」がなかなか面白い。
メタ視点を持っていれば、なんとなく犯人がわかってしまうこれまでのミステリー要素と異なり、誰かが何かしているのはわかるものの、それぞれがどういう役割を果たしているのか、ばっちり当てるには難易度が高くなっていて、読み応えが増していた。
解決まで、二転三転と景色が変わって、伏線が回収されていくカタルシスが気持ち良く、アクセント回となる「人魚のいる海」への突入前にしっかりとインパクトを残している。



総評(ネタバレ注意)


"そして異界の扉がひらく"の副題が示すとおり、主人公ふたり以外の異能が明らかになっていく。
「四時四十四分の怪」は、そのジャブとしては最適。
ミステリー部分は、民俗学的な見地で、人の手による行為が呪いを生み出していく様子を追体験しながら、高槻の鮮やかな推理で解決する王道展開。
一方で、事件とは別のベクトルで、嘘を見分ける深町と同じ能力を持つ人物がいた、という伏線を回収。
異能が、日常の中に溶け込んでいることを示唆する事例となっていた。

「人魚のいる海」は、仮にミステリーと呼ぶとしたら、あまりにも稚拙。
窓辺についていた人魚が通った跡や、残された鱗は、人が子供のためにやったことでした、というのは、話の流れ的に何ら不思議でもない話で、これだけだと消化不良だろう。
この話のどこが衝撃的かと言えば、目撃された人魚と、不老不死の女性に対して、真相が語られなかったこと。
人間がやったという結論を出しつつ、実は本当に怪異だったかもしれない、という見せ方になっているので、むしろ怪奇モノの要素が強かった。
前章で異能の存在を認めたことがクッションとなっていて、いよいよ世界観が混沌としてきたな、といったところだ。

またも濃いキャラクターである渉が登場し、登場人物欄も賑やかになってきた。
「人魚のいる海」では、事件そのものには深く関わってこなかったので、まだまだこんなものでは終わらないはず。
この後は、ミステリー的な方向感に戻っていくのか、怪奇モノに寄っていくのか。
後者だと、このnoteでは採り上げにくくなるなと思いつつ、続きは楽しみである。

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