【ミステリーレビュー】准教授・高槻彰良の推察3 呪いと祝いの語りごと/澤村御影(2019)
准教授・高槻彰良の推察3 呪いと祝いの語りごと/澤村御影
異能を持つ高槻・深町コンビによる民俗学ミステリーシリーズ第三弾。
あらすじ
深町の友人・難波の元に届いた不幸の手紙。
深町は、難波を高槻に引き合わせ、彼の不安を取り除くが、時を同じくして、「図書館のマリエさん」という高槻も知らない都市伝説についての依頼を受ける。
図書館の暗号を解かないと呪われるという「不幸の手紙と呪いの暗号」。
旅行にかこつけて鬼神伝説が残る村にて調査をはじめた高槻たちが、鬼を祀る洞窟で人骨を発見したことから思わぬハプニングに巻き込まれていく「鬼を祀る家」。
彼の受難は、不幸の手紙の呪いによるものなのか。
概要/感想(ネタバレなし)
物語の設定を伝える1,2巻の役割に対して、この3巻は、ある種のルーティンワークの中に入ってきたかな、という雰囲気。
読み飛ばしたところで、彼らの過去に何があったのか、という秘密に迫るうえでの影響はなさそうである。
その意味では、どこに主眼を置くかになるのだが、その巻の中で完結しているミステリーの質というところに目を向けると、面白くなってきた、が答えとなろう。
ベタなモチーフである不幸の手紙を、1冊にまたがる世界観の礎にしつつ、粒の大きい中編を揃えてきたな、と。
もっとも、ミステリーの難易度としては、やはりライト。
図書館の暗号は、見ればだいたい構造に気が付くだろうし、鬼頭家の秘密についても謎の根幹については推測できるはずだ。
では、何が面白いかと言うと、民俗学的な見地での謎に尽きる。
どうして、局地的に新しい都市伝説が発生したのか、どうして、人骨が鬼の骨として祀られていたのか。
この部分での解釈や着眼点の面白さこそ、このシリーズの醍醐味なのだろう。
なお、【extra】として、高槻と佐々倉の幼少期のエピソードの短編も収録。
ミステリーとしての解釈はなく、キャラ設定、あるいは世界観の深掘りといったところで、キャラクター小説としてのおまけという位置づけか。
総評(ネタバレ注意)
まず、「不幸の手紙と呪いの暗号」。
海外が発祥、当初は「幸福の手紙」、日本人の感性とマッチしていた……
不幸の手紙の成り立ちにかかる蘊蓄は単純い興味深く、それだけで元は取った感もあるのだが、そこから派生して、都市伝説がどうやって出来上がっていくのか、というテーマに持っていったのが秀逸である。
メインであるはずの暗号は、もはやあってもなくても変わらない。
ただ、怪異を匂わせる形で、真実に近づくヒントを提示するプロットは悪くなかったのでは。
「鬼を祀る家」は、いよいよどっぷり民俗学といったところで、因習(というほどではないが)が残る村、遂に殺人事件の疑惑が、という設定のワクワク感も良い。
その因習に対しても、民俗学としての回答が用意されているのも良い。
一般的なミステリーが、伝説があるから、で済ませてしまうところを、伝説が出来た背景にある負の歴史を解き明かすことをメインテーマにできる強みが、ここで顕在化した形だ。
途中から、高槻の過去に深町が向き合うためのイベントが発生するが、どうせ前に進まないので、蛇足と思ってしまう。
背中の秘密が遂に、とはいえ、前情報以上のものは何もないし、死にかけるエピソードのカードを切ってまで挿入する内容だったのかは微妙かな。
他方、不幸の手紙の伏線から、滝から落ちる受難を結び付けて、呪いという大きなテーマに繋げる構成はハマっていたから、難しいところだが。
中編2本と、前作、前々作より1本少ないので、物足りなさはあるものの、特殊設定を飲み込み切った感はあり、安定軌道に乗ったのは間違いない。
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