見出し画像

【ミステリーレビュー】准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき/澤村御影(2018)

准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき/澤村御影

画像1

絶対記憶能力を持つ准教授・高槻彰良と、嘘を認識できる耳を持つ大学生・深町尚哉のコンビで展開される民俗学ミステリの第一弾。


あらすじ


怪異の世界における夏祭りに迷い込んだ影響で、話す声から嘘を聴き分ける能力を得た尚哉は、それ故に他人との関わりを避けていた。
しかし、なんとなく受講した「民俗学2」の准教授・高槻に気に入られ、バイトとして彼のフィールドワークに付き添うことになる。
高槻は、民俗学の見地から怪異を研究し、あわよくば本物の怪異に出会うため、都市伝説や怪談といった話を集めているのだが、怪異に出会うと周囲の目を考えずにテンションが高くなる癖があり、"常識担当"の助手を必要としていた。


概要/感想(ネタバレなし)


コミカライズやテレビドラマにもなっている人気作。
異能が設定の中に盛り込まれており、ミステリーとしては邪道なのかもしれない。
ただし、わかるのは、誰かの発言に嘘が混じっているかどうかのみ。
これがフーダニットのミステリーであれば、チートすぎる能力と言えるのだろうが、怪異の噂が立つほどの不可思議な事象に対して、直接的なヒントに結びつくわけではなく、どうして嘘をつくんだろう、あるいは、どうして嘘が含まれていないのだろう、という謎の増長に一役買っている。
率直に言って、第一弾はわかりやすいチュートリアル的な事件を持ってきていると思われ、謎解き面での食い足りなさはあるが、可能性を感じるフォーマットだな、とも。
癖のある探偵役と、読者の代弁者的な立ち位置をとるワトソン役、という極めて平凡なスタイルであるにも関わらず、ワトソンが特殊能力持ちというだけで、こうも新鮮さが生まれるのか。

そもそも民俗学というワードに心躍るミステリー読みは多そうだし、学問的視点から怪異を語る豆知識も豊富。
色々な角度から興味をそそられるシリーズになりそうなので、これは、第二弾以降を読むのも確定かな。
相当なレベルでのイケメンという設定があるのに、表紙画ではあまりイケメンに見えないのがもったいない。



総評(ネタバレ注意)


科学的な見地で怪異の正体を解明するタイプのミステリーは数多くあれ、民俗学的に、というのが肝。
そもそも怪異は、解明されていない科学現象や陰惨すぎる人間の犯行を受け止めやすく解釈するために登場したものであり、そのなりたちを現代風の事件で再現する、といった意味合いが含まれているように思う。
逆説的ではあるが、怪異の仕業に見立てた人間の犯行、という前提で進行していく一般的なミステリーに対して、かえって"本当に怪異だったらどうしよう"という気持ちが蘇ってくるから面白かった。

また、トリックや犯人を暴いて終わり、ではなく、きちんと残された人間の心を描こうとしているのも、民俗学的なアプローチがあるからこそ。
ケアができないのであれば、怪異は怪異のままにしておいたほうが良い、とまでは言及されていないものの、真相がわかっていても段取りを重視したり、真相に近づくためであっても傷ついている関係者には踏み込まないなど、高槻の探偵スタイルは、既存の"奇矯の名探偵"たちとは異なる、彼の個性、魅力であると言えよう。

前述のとおり、ミステリー的には易しく、散々こすられてきたネタばかりで、謎解きのカタルシスが弱いのは残念。
ただし、嘘という要素と、民俗学的アプローチが加わることで、読ませ方としては非常に巧妙。
ともすればシンプルな事件を尚哉が複雑なものに誤認する叙述トリック的な作風や、真犯人が明らかでも、トリックが暴けない倒叙モノ的な方向にも転がせそうな点でも、ポテンシャルを感じるのである。
それにしても、最後はどこに落とすのだろう。
尚哉の能力は怪異によるもの、というのは確定でいいのだろうか。
それとも、最後にひっくり返されるのであろうか。

#読書感想文

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?