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【ミステリーレビュー】准教授・高槻彰良の推察6 鏡がうつす影/澤村御影(2021)

准教授・高槻彰良の推察6 鏡がうつす影/澤村御影

澤村御影による民俗学ミステリーシリーズ第六弾。


あらすじ


"異界"から戻ってきた高槻と尚哉だったが、高槻は"もう一人の高槻"によって記憶を失くした状態だった。
それ以来、元気のない高槻を外に連れ出すため、尚哉は「隣のハナシ」に寄せられた"遊園地のお化け屋敷に本物の幽霊が出る"という調査依頼に対して、是非受けようと持ち掛ける。
夏の続きを印象づける「お化け屋敷の幽霊」。
絶縁状態だった従弟の優斗から連絡があり、話を聞くと婚約者の肩に人面瘡が現れたという。
彼女は、高槻を"天狗様"と呼ぶなど、どこか異様な雰囲気に包まれていた。
高槻家の闇を垣間見る「肌に宿る顔」。
幼い頃、母親が紫鏡に吸い込まれて消えたという19歳の女性。
二十歳になるまでに忘れないと不幸が訪れるという怪談との関連性を調査するために出向く高槻と尚哉だが、そこには思わぬ真実が。
怪談の別解を求めるような「紫の鏡」の全3編を収録。



概要/感想(ネタバレなし)


久しぶりの短編×3という構成。
では、1話あたりが軽くなるかというと、案外そんなことはなく。
「お化け屋敷の幽霊」は、重い展開が続いていた中での日常回といったところだが、前作を受けて、元の高槻に戻るためのクッションは必要だったと言えるので、必ずしも場繋ぎだけではない。
ここ最近の定番だった【extra】ストーリーの強化版と見れば、十分に満足のいくボリュームであろう。

「肌に宿る顔」では、高槻家に関連する新キャラも登場。
複雑な環境故に、レギュラー化とはいかなそうだが、何かの伏線になっていたら面白い。
登場人物紹介にも名を連ねる渉が、鳴り物入りで登場した割りにはその後さっぱり登場してこないのもあって、もしかしたら高槻家で何か起こる前触れなのかもしれない、とでも思っておこう。
高槻の過去に踏み込んでいくためのエピソードかと思いきや、事件単体でもインパクトがある内容。
久しぶりのがっつりミステリー回だった。

そして、「紫の鏡」の構成力。
調査のために、怪異ではなく地域の研究をしていることにして話を聞く、というくだりが出てくるのだが、尚哉の耳を心配する描写を挟むのが設定に忠実。
このぐらいの方便は探偵モノにおいてお約束だが、そうか、これも嘘になるのか、と芸の細かさをうかがわせる。
ある種のどんでん返し的な展開は、怪異モノとしてもミステリーとしても納得のオチだったのではなかろうか。



総評(ネタバレ注意)


高槻が記憶を失くしてゼロクリア。
振り出しに戻るのかと危惧していたが、尚哉が決意を固める成長エピソードにもなっていて、同じところには戻っていない。
真相に迫るには至らないが、しっかりと前には進んでいるというのを示していたので、気になるほどテンポダウンにはならず一安心。
むしろ、これも想定してプロットを組んでいるのだろうから、著者の構成力の高さを見せつけられた形だ。

長さの割りには、「肌に宿る顔」が濃厚だったので、これがメインディッシュかと思っていたら、それを上回るのが「紫の鏡」。
構成としては、ほぼほぼ日常回。
滞りなく真相まで導かれて、まぁ、本物の怪異の仕業じゃなければそんなところだよね、短編だしね、と落ち着いてからのひっくり返し。
確かに、ある程度の納得感はあるけれど、出入口で見張っていた少女に気付かれずに失踪した理由にはもやもやが残っていた。
後半の展開には、尚哉の耳がこう使われるか、と驚きっぱなしである。
"もう一人の高槻"と繋げて引きも完璧。
待ち焦がれていた本物の怪異が続出している展開に、高槻のマインドがどう転がっていくかも見ものだろう。

「ジェットババア」や「紫の鏡」に対する民俗学的な都市伝説の講義も相変わらず面白い。
考えてみたら、「肌に宿る顔」にしても、「紫の鏡」にしても、元ネタと実態が似ても似つかない展開になっているのだが、よくもまぁ、上手く昇華しながら物語を運んだものだと感心してしまう。
見落としそうだけど、「お化け屋敷の幽霊」にも本物が仄めかされている。
描かれなかった、それを聞いた佐々倉のリアクションも気になるところだ。


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