見出し画像

【ミステリーレビュー】スウェーデン館の謎/有栖川有栖(1995)

スウェーデン館の謎/有栖川有栖

有栖川有栖版・国名シリーズの第二段にして、初の長編となった"作家アリス"シリーズの長編第四弾。


あらすじ


取材で裏磐梯のペンションを訪れていた推理作家・有栖川有栖。
宿泊していたペンションの隣は、著名な童話作家である乙川リュウが家族と住むログハウスで、地元の人はスウェーデン館と呼んでいるらしい。
とある出来事から、リュウの妻であるヴェロニカと知り合ったアリスは、スウェーデン館に客として招かれ、その日のうちにリュウとも打ち解ける。
しかし翌朝、館の離れでゲストのひとりが殺される事件が発生。
事件の不可解さに疑問を持った有栖は、ペンションでの宿泊期間を延長し、臨床犯罪学者・火村英生に応援を頼むことにする。



概要/感想(ネタバレなし)


ベタ中のベタ、雪の山荘と足跡をテーマにした密室殺人。
雪に残されていたのは、離れに向かう被害者の足跡と、第一発見者であるリュウが往復した分の足跡のみ。
かといって、凶器は見つからず、死体の状況からしても自殺や事故の線はなさそうだ。
あまりに王道すぎて、メタ的な要素なしでテーマになることは少なくなってしまったモチーフだが、むしろ、聖地に踏み込んでいるぞ、という感覚すらある新本格ミステリーのど真ん中。
そこに堂々と入って行けるのが"作家アリス"シリーズの醍醐味であり、ベタなモチーフはやり尽くしてほしい、ぐらいの心持ちで読んでいる節がある。

過去に起こった悲しい事故。
新たに発生した痛ましい事件。
これまでよりも、事件の発生までにページを多く割いているのが特徴で、火村が合流するのは、物語の後半から。
アリスの単独行動や心情描写が、いつもに増して詳細に描かれることになる。
恋愛系のエピソードは学生アリスの領分かと思っていたが、既婚者であるヴェロニカに抱く複雑な感情には、そういう要素が多分に含まれており、悲恋になることがわかっているからこその微妙な距離感は、なんとも切ない。

よくある多重解決的な推理合戦ではなく、感情面から攻めていくフーダニットに仕立てたのは、本作における大きなポイントだったのかもしれない。
アリス単独での持ち時間が長いと、容疑者一同にも立体感が出てくる。
火村の登場以降は、いつものテンポ感を取り戻して、過不足ない本格ミステリーの世界へ再突入していくのだが、彼の思考は効率主義で、完結までの時間をショートカットしてしまうだけに、それまでに誰も犯人であってほしくない状況が出来上がりつつあったことで、作品に奥行きを与えていたと言えるだろう。


総評(ネタバレ注意)


ベタにベタを重ねてくるのが初期"作家アリス"シリーズの醍醐味ということもあって、犯人については、メタ解きでわかってしまったのでは。
その辺は、古典になりつつある四半世紀以上前の作品だということを考慮しないといけないのだが、一番犯人であってほしくない人物が犯人という推理小説の宿命的なテーマに真正面からぶつかって、ちゃんと、その意味を感じさせる内容になっていた。
火村の登場を遅らせてまで、行きずりのヒロインを置いた効果が出て、ベタ故の陳腐化を、シリーズとしての新鮮味で相殺していたと言える。

推理パズルとしての出来も、さすがは有栖川印。
偶然、靴を間違えた、というのはいくらなんでも強引な気はするし、運ぶ対象が泥酔状態とはいえ、随分と危ない橋を渡ったトリックだなと思わないでもないが、気付くことはできたでしょ、というヒントは確かに出揃っている。
相変わらず、それだけではわからないけれど、パズルが解けたときに納得感を与えてくれる、という伏線の張り方が上手いなと。

これ、現代的な感覚では、リュウがネット上でボコボコに叩かれつつも、司法上ではヴェロニカの罪のほうが重いと解釈され、更にリュウが悪者になっていく……というストーリーが浮かんでしまうのだけれど、1995年当時だとどうなのだろう。
不貞はそっちのけで、リュウが妻や家族を守ろうとした美談と映っていそうで、火村の台詞も、どちらかと言えば援護射撃的。
90年代の作品は、文章の読みやすさとして現代小説と大差ない割りに、なんだかんだで社会性が大きく変わっているので、時代背景を踏まえて読むのが、改めて難しいなと実感する。
古典を読んだら最近のミステリーを、その次はシリーズものを、と時代がバラけるように読む癖があるのだけれど、同じ時代で固めて読んだ方が入り込めたりするのだろうか。

#読書感想文







この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?