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#25 とうめいな暴力

こんにちは。sacaikumiです。

この「考える」マガジンでは、私が関心を持ったトピックを幅広いテーマで自由に書いています。

テラスハウスに出演中の女の子の訃報が出てから1週間。私はまるで友人を失ったかのような気持ちで悲しみに暮れていました。

私はここ何年間かテラスハウスのファンで、毎週Netflixが更新されるのを楽しみにしていました。エピソードが更新されると副音声の有無で二回見るほど。

簡単に番組の仕組みを紹介すると、テラスハウスとは、綺麗な豪邸に若い男女が住みこみで繰り広げられる日常に、スタジオメンバーがちゃちゃをいれていくという構造で出来ています。

アンチリアリティーショー派の友人からすると「台本は無いとかいいつつそれに近いものは用意されているだろうに、なぜそんなものを観るのかさっぱりわからない!」とのことなのですが、私にとってもはや台本の有無は番組の魅力の核ではなく、私にとってはただ「何も考えなくて良い楽しい時間を日常に用意したくて、リアリティーショーはそれに最適なコンテンツ」だったんです。

練りに練って作られた映画ほど集中しなくても良くて、バラエティ番組ほどうるさくなくて、特定の文化(大抵の場合それは日本)を必要以上に褒め称えてもいなくて、アニメほど文脈が分かり過ぎない。ちょうどよかったんです。温度感が。

そんな、私の日常の細やかな楽しみだったテラスハウスで起こってしまった悲しすぎるくらい悲しいニュース。今回起こった"とうめいな暴力"の連鎖について、私なりの考えをまとめました。

まず初めに私の主観ですが、私はテラスハウスには台本は無いと思っています。もし台本があるとしたら、各出演者の事務所は出演者の得になるような組み方を希望するはずで、そこまで仕組まれていた上で彼女のキャラクター性が演じられていたのだとしたら、今回のような事件は起こっていないと思うから。

でも、台本の代わりにあるものは膨大な映像データ。人が数人集まって24時間カメラを回し続ければ、沢山の表情、しぐさ、会話情報をデータに収めることが出来ます。そしてそれを切り貼りすれば、編集次第である程度思うがままにキャラクターを作り上げることが出来ちゃうと思うんです。

現代のカメラは性能も良いから、話すときの定位置というルールさえ予め決めてしまえば、発言者にフォーカスした映像くらいは作れると思います。(実際、重要な話し合いは人が入れ替わっても似たり寄ったりなアングルで構成されています。)

では、番組を編集した人が100%悪かったかというと、これもまた難しい問題です。まず第一に、一つの映像の捉え方を定義付けるのに、スタジオメンバーのコメントがそれなりの力を持っているから。第二に、視聴者が求める編集が出演者本人のリアルさではなく、現実世界に溶け込むリアルさの虚像だったから。

ひとつひとつ説明します。

まずスタジオメンバーのコメントについてですが、スタジオメンバーは若い男女の生活、会話を通して、出演者の人間性や恋模様を勝手に予測して、都度喜んだり落ち込んだりしているんですね。鋭く切り取られた編集をさらに面白くする為に。そして一人一人に役割があって、なるべく出演者を悪くいう人、擁護する人というバランス感の中で番組は成り立っていました。今、お笑い芸人の山里亮太さんが叩かれているのは、番組内で悪役コメンテーターを担当していたからです。でも、彼らがコメントを入れていくこともまた'ショー'以上でも以下でもありませんでした。何年も番組が続いてきたのは彼らの観察の面白さと、まるで自分自身もスタジオメンバーの一人として観ているかのような感覚に浸れる優越感を味わえたから。いうならば、視聴者全員がスタジオメンバーの感覚になれてしまう番組なのです。

スタジオメンバーは顔と実名を晒した上で、かつ映像データ内であくまでショーとしてコメントを述べていますが、私たち視聴者はそれと同じことを匿名で、本人に、SNSで直接送れてしまうというところに、今回の中傷問題の怖さのひとつがありました。スタジオメンバーに感情移入し過ぎてしまった故の誹謗中傷。これは前々からこの種の番組で付き纏う問題として認知されていたので、これだけ悲しい事件が起こるまで誰も何も手を打たなかった所には疑問が残ります。

第二に、視聴者が求める編集が出演者本人のリアルさではなく、現実世界に溶け込むリアルさの虚像だった件について、これは、編集とはすなわち、よりリアルな現実の再構築だと思っています。その「リアルさ」のゴールは出演者のリアルなパーソナリティを浮き出すことではなくて、「いるよね、こういう人!」っていう像を完成させること。リアリティーショーのリアルさってそういうところにあるんだと思います。

実際に、私たちの生活の中で交わす第三者の情報交換でもこのふたつと同じようなことが日常的に起きています。

私自身の実生活でも昔、似たような体験がありました。

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