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夜
2024年4月10日 23:22
レッスンを行うビルのエレベーターが改装工事中だった。仕方がないので、チェロを背負って階段で5階まで上がる。レッスン室に入ると、「階段、大変だったろう。」と先生が労ってくれた。「いいえ。貧血治ったから、楽勝ですよ♪」しまった。口が滑った。案の定、先生の表情が険しくなった。「なに、お前また貧血になってたの?」幼少期からの栄養不足が祟って、私は栄養の吸収が悪い体質である。チ
2024年1月15日 22:52
年明け最初のチェロレッスン。先生のご指名で私がトップバッターだ。昨年末、先生は先生のお父さんを看取った。私と話がしたいんだろうと思い、だいぶ早めに家を出た。音楽教室に入ると、シン、と静かだった。時刻はまだ午前9時を過ぎたばかりだ。一番奥のレッスン室だけ、明かりが灯っていた。教室の入り口の扉が私の背後でパタンッと閉まったと同時に、その明かるい部屋から「お入り。」と先生の声がした。
2023年12月14日 23:06
激務が続いている。この時ばかりは、非日常の時間が過ごせるレッスンの日が楽しみだった。「こんにちはー!」と私がレッスン室に入るなり、先生がポカンとした。「雰囲気が変わった?発表会の時と違う…あ、髪切ったのか。」さすが、おしゃれにこだわる先生。私の家族、職場仲間は誰も気づいていない。ここのところ、人前に立つ仕事(発表とか講師とか議長とか)が多いから、せめて身綺麗にしておこうと、
2023年11月12日 22:51
「センセ、遅れてスミマセン!」私はレッスン室に飛び込んで言った。10分の遅刻。先生は、私の知らない曲の練習をやめて「なんかあったか?」と聞いてきた。「家を出て2kmくらいのところで、車が故障しました。」トロトロ走って、何とか家へ引き返すことができた。先生「それは大変だ。」と言った。「故障が大通りに出る前で良かったな。」「はい。大通りの真ん中で止まらなくて良かったです。」