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カラフルな夢の石~ラブラドライト~

眠れない夜がまた訪れる。夜が来れば、眠れると思っていた。暗い部屋、青白い月の光、キラキラと優しく光る星々がどこまでも続く青い夜空のように、深い眠りに誘ってくれるものだと思っていた。

いつからだろう。眠れない夜が増え始めたのは。将来への不安か、いつか孤独になる不安か。生きがいのない自分を悲観する日々。今日も眠れない夜が続く。眠るってどうやるんだっけ。寝ようとするたび、頭の中で葛藤が戦争を始める。

今日の仕事でうまくできなかったこと、電車で足を踏まれたのに謝る自分、推し活するほどない貯金、生きる意味。

それらが頭を占拠して、眠りを妨げる。頭痛と吐き気が交互に襲い掛かり、疲れ果てて意識が飛ぶ感覚。眠れない夜はいつ終わるのか。そうやって夜をやり過ごす。

布団に入って何度寝返りを打ったか。こんなはずじゃなかった、どこで狂ったんだろう。その思考を止められない。今日もまともに眠れずに朝を迎えるのか。

ため息をついて天井を見つめる。真っ暗な部屋の中に月明かりが差し込み、優しい香りがした。その時、小さな光が揺れ動き、目の前を覆ってきた。慌てて振りほどこうとすると目の前には、月光に照らされる幻想的な海が広がる。さざ波が柔らかく押したり引いたりして、まるで微笑んでいるように優しい波だった。深い青い海の色が、この世のものとは思えないほど美しかった。

一面にカラフルな石が散らばっていて、あまりにも軽い石はぷかぷかと海に浮かび、夜空にも星のような石が浮かんでいる。とうとう幻覚を見るようになったのかと思ったが、これが夢だったのかもしれない分かった時には、自分に呆れながら静かに海を受け入れた。

久々に見る夢はワクワクさせた。そこら中にある石はカラフルで、色も形も様々どれもが美しかった。石が波に打たれたり泳いだりする様子に、僕の中の何かが芽生えたように感じた。思わず立ち上がり、浜辺を歩いてみる。やけに体が軽い。ふと海面に映る自分を見ると、10歳の自分がいた。

あの頃は毎日が楽しかった。兄さんの影響で、プラモデルを作る日々だった。自分の好きなものから友達の好きなものまで、たくさん作った。いつか、同じ趣味の人と語り合いたいと思っていた。

いつの日か、プラモデル愛を語る僕に対して回りが引いていくのを感じた。だから、少しずつみんなに合わせるように作らなくなった。あんなに好きだったのにな。。。そんなことを思い出しながら、浜辺の石を見比べていた。

カラフルな石がある中に、一つだけ地味な石を見つけた。グレーで涙の形をしている。僕はその石を指でつまんで月にかざした。石は月光でキラキラと輝いた。その美しさに涙が溢れた。そんな僕に、小さくて光り輝く妖精がやってきて、肩にとまった。

「この石はラブラドライトっていうの。地味に見えるけど、ラブラドレッセンスがまるで蝶の羽のように光って、とても美しいの。あなたは今、変わりたいって思ってるの?」突然の言葉に僕は驚いた。ずっと胸につっかえていたものが、今溶けて溢れている気分になったから。だから泣いていたんだ。

「僕は、変わりたいんだ。自分の人生を取り戻したい」

妖精は微笑んで僕の回りをくるっと飛んで、石の中に消えた。「君はずっと、自分を抑え込んで生きていたのね。あの頃から時間は止まったまま。さぁ、時間を取り戻しましょ。きっと楽しい日々になるわ。」

ラブラドライトが眩しく光った。

・・・・・・・久々にぐっすり眠れた気がする。体が軽く感じ、いつもの頭痛と吐き気も感じない。なんて清々しいんだ。思いっきり手を伸ばして空気を取り込む。とても長い夢を見ていたようだった、夢は思い出せないけれど。

ふと右手を見ると、握りしめられた手のひらにグレーに輝く石があった。

なんだっけ、この石は。思い出せないけど、すごく安心した。僕は石を財布に忍ばせて、仕事へ向かった。毎日通る道にプラモデル屋さんがあった。こんなとこにあったっけ?と思ったが、なんだか胸がワクワクする。仕事帰りに寄ってみよう。

あとがき
眠れない夜に悩む彼が、ある夜、月明かりに照らされた幻想的な海へと導かれます。そこで彼はカラフルな宝石が浮かぶ美しい世界に出会い、10歳のころの夢や情熱を思い出し、自分の人生を取り戻す決意を固めます。

この物語は、過去の夢を再発見し、内なる輝きを取り戻すことで、自己の本質に気づく大切さを描いています。

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