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時計の契約:最終章25時

最終章:希望の光 

25時:日常

この本は小さい時にじいちゃんがくれた本だった。あまり本が好きじゃなかった俺だったが、この本に出てくる黒猫がとても気に入っていた。だから小さい時に見つけた黒猫に迷わず、本の中の猫と同じマレヴォルと名前を付けたんだ。小さい頃は難しくてよくわからなかった本だったが猫のシーンだけは大好きだった。俺は本をパラパラめくってみた。
 
ある双子の少女はとても裕福でしたが母を病気で亡くしました。数年後新しいお母さんがやって来ますが、双子が気に入らないのでお父さんにたくさんの嘘をついて、彼女たちをたくさん叱りつけました。新しいお母さんに洗脳されてしまったお父さんはついに二人に手をかけてしまいました。あんなに優しかったお父さんをこんな風にしてしまったのは自分たちのせいだと思いお父さんを許しました。だけど憎悪を植え付けたお母さんを許すことができませんでした。人間の妬みや恨みがこんなにも人をダメにするのかと思うといたたまれませんでした。なので彼女たちは人間たちの憎悪を喰らう役目を担おうと決心し、1冊の本になりました。そしてその本にその宿命を負わせることにしました。本は人間の憎しみや恨みなどの黒い気持ちをどんどん喰らいました。そうすることで、人間は心の均衡を保ちみんなが幸せになりました。ある日、黒い猫そして白い猫が違う世界線でとてもつもない憎悪に溺れていました。そんな猫を心優しい少年たちが助けてあげました。そして猫に名前を付けるのです。
 
一つの世界では、真っ黒な猫に悪意のmaliceと邪悪のevilからとってマレヴォルmalevol憎悪と闇を弾き飛ばすくらい強い意味を。
もう一つの世界では、真っ白い猫に愛loveと輝くluminousからとってラヴィアナlaviana光の中に愛を宿す強さという意味を。
 
だけど警戒心が必要以上に強くなってしまった猫は過去のトラウマにより少年の前から姿を消してしまいました。ですが、憎悪だけは膨れ上がったままです。彼女たちはその姿を見てとても悲しくなり、その気持ちを楽にしてあげるために猫たちを本の世界へいざないました。
 
時の本が人間の憎悪を喰らい、人間たちの心の均衡を保ってきましたが、憎悪の量が増えるにつれて本も限界に達してしまいました。ついに本の世界の均衡は崩れ、黒い猫と白い猫が悪魔として姿を変えてしまったのです。そんな姿を見ていた少女たちは、本の消滅を祈るようになりました。そこに現れたのが二人の少年でした。この少年たちならきっとまた救えるかもしれないと思ったのです。そして二人の少年は本の中で悪魔を助け、解放してあげるのです。
 
一通り本を読んだ時、時翔ときとが心配そうに覗いてきた。
「兄さん、大丈夫?」俺はこの時初めて気づいた。この本を読んで涙を流していたことに。なんだかわからないけど、すごくよかったと思った。これは本の感想なのか、猫に出会えたことなのか、他の理由なのか分からないけど。猫と時翔を見るとすごく安心した。そして本に手をのせてみた、なんとなくあの少女がいるんじゃないかと思ったから。
 
窓の外では、夜明けの光がゆっくりと部屋に差し込んでいた。本の最後は二人の少年、そして猫たちが少女たちと手を取り合っていた。彼らの姿は穏やかで、安心感に満ちているようだった。
「兄さん、この本、素敵だったね。小さいころ何度も僕に読んでくれたよね」と時翔が言った。俺は微笑みながら答えた。
「ずっと忘れていたんだ。この本のこと。じいちゃんが亡くなってから、俺は自分の心のバランスを保てなかったのかもしれない。この物語は、少女たちが人間の憎悪を喰らう役目を果たすことで人々の心のバランスを保っていた。なら、この少女たちは世界の犠牲になっていたんじゃないかって。俺はずっと、じいちゃんがいない世界で自分だけが犠牲者だって思い続けてた。もし、じいちゃんがいる世界線があるなら、その世界の俺が憎いって。」猫が膝の上に乗ってニャーと鳴いた。
「じいちゃんがいる世界線の俺?」時翔が尋ねる。
「そう。。」
 
「つらい現実から目を背けて、あるか分からない世界を勝手に憎んでいたのかもしれない。自分一人が犠牲者ぶって、全部背負った気になってた。でも結局自分を見失って、殻に閉じこもって闇に飲み込まれてた。だけど、この本を読み直して、誰かの犠牲の上では成り立たないんだなって思い知ったよ。じいちゃんに背中を押されている気がするんだ。ちゃんと前に進んで、心のバランスを自分で取らなくちゃね。」
 
時翔は考え込んでいるようだったが、やがて微笑んで頷いた。
「そうだね、兄さん。心のバランスを保つことが大切だね。」
どういう意味だよって冗談が言えるくらいに俺の心が成長したように思った。
 
ふと時の本を見ると、表紙の時計は確実に動いていて25時になろうとしていた。新たなる未来へ物語が始まっているんだ。
 
俺にはそう思えた。俺は窓から空を見上げて、翔けていく雲に遙かなる希望を感じた。

ー完ー


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