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栞と赤い糸

みんなより1本早い電車
人が少ない朝の教室
放課後のあたたかな陽射しが入る図書室
塾の帰りによる小さな公園
 
僕はいつも本を読む
本の世界で会話をする
 
もうすぐ冬も終わりを告げて
春らしいあたたかい日が続いていたけれど
今週は雨が続いていた
 
本が濡れるからあまり好きではない雨に少しイラついていた
いつも通りの時間のいつもの席に座り本を読む
20分間のひと時を楽しむ
 
先ほどまで雨が降っていたのは嘘のように晴れ渡り
朝日が眩しかった
 
駅に着く
傘を忘れないように持って学校へ向かう
 
朝早いので職員室へ教室のカギをもらって階段を上がる
誰もいない教室
たまに他のクラスの生徒が廊下を歩いている程度だ
また本の続きを読む
 
本を取り出すが栞が見当たらない
僕が小学生のころ、庭に咲いていた
黄色いぽんぽんしたミモザを気に入り栞を作った
それが上手にできて今でも大切に使っていた
3月8日はミモザの日だと亡くなった母が教えてくれた
 
 
栞を探すが、カバンにもどこにも落ちていない
少しがっかりしたが、確か庭に咲いていたことを思い出し
帰ってから栞を作った
 
前のより上手にできたな
ねぇ母さん。
失くさないように制服の内ポケットに入れておいた
 
確かあの日はまた数日雨が続いた日だった
憂鬱な気持ちで電車に乗る
 
今日はいつもの席に人が座っていたのでドアから離れた場所へ座る
いつものように本を取り出す
 
「あ、あの、これ忘れ物じゃないかなって思って!」
知らない女の子が栞を手渡してきた
母さんの声にそっくりでびっくりした
 
「ありがとうございます。探していたので助かりました」
まるで母さんが届けてくれたような気がして嬉しかった
 
彼女はお辞儀をして元の席へ戻っていった
真っ赤になった顔を隠すかのように本を読んでいた
よく見ると僕と同じ本だった
ただ、本は逆さまだったのが母さんと同じで親近感がわいた
本を読まない母は僕との時間を作るために僕の読み終わった本を読んでいた
おやつを食べて本を読むのが日課だった
母は眠そうな顔を本で隠す
「母さん、本が逆さまだよ」
「母さんは逆さまでも読めるんだよ」って言っていつも僕を笑わせた
 
そんな母さんのことを思い出していると、彼女と目が合った。
僕は彼女のそばまで行って
「僕と同じ小説読んでいるんですね」と声をかけ隣に座った
 
「奇遇ですねー」と目が泳いでいた
こんなやり取りがまた出来るなんて運命かなって確信した瞬間かもしれない。
「その栞はなんかの花ですか?」彼女が聞いてきた
「ミモザの花です。黄色いぽんぽんした可愛い花で僕が栞にしたんですよ」と答えた
彼女は「すごーい器用ですね」って言って笑った。
 
「3月8日はミモザの日なんですよ」と母から聞いた話をそのまました
すると彼女は
「3月8日は私の誕生日だ」
 
絶対運命じゃん
僕は今、運命の人に出会ったじゃん
僕は精一杯の紳士を装って
「奇遇ですね^^では誕生日プレゼントです」といって、内ポケットに入れていた栞を出す
「失くしたと思っていたのでもう一枚作りました。なので新しいほうをあなたに上げます」
 
僕は駅に降りた
また会えるといいなって。
 
「あ、あ、ありがとうございます。お、お礼をしたいのですが!」
「ではまた同じ時間で会えるといいですね」
動き出す電車に僕は手を振った
彼女の栞と僕の栞は赤い糸でつながった


あれから10年の時がたち
彼女の栞と僕の栞の
赤い糸が目の前にいる
名前は栞糸(かいと)
僕たち栞がつないだ
僕たちの宝物だ

二つの話し

このお話は彼氏バージョンのお話でした
彼女バージョンもございますので
ぜひ併せてお読みいただければ
より深い世界をお楽しみいただけるようになっております( *´艸`) 

 



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