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【番外編】「南アフリカと日本の農業起業家のビジネス交流プロジェクト」その④(最終回)

こんにちは。さがみこファーム代表の山川勇一郎です。今回が南アレポート最終回です。

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ふと、クリント・イーストウッド監督の映画「インビクタス」が見たくなり、改めて見返しています。マンデラ大統領と南アのラグビーナショナルチーム「スプリングボクス」が、ワールドカップで次第に国民の期待を集め、最後は大きなうねりとなって優勝まで駆け上がる民族融和の物語です。いささか美化された感のあるこの映画は、1995年のアパルトヘイト撤廃の混乱と熱狂を描いたもので、今も語り継がれる名作と言えます。それから27年の月日が経過しました(映画公開は2009年)。

27年後の南アフリカでは、マンデラ大統領の政党ANCが政治的多数派を握り続け、黒人が活躍できる機会が増えた一方、路上生活者に白人も目立つようになりました。貧富の差は依然として大きく、ヨハネスブルグの治安は世界でも最悪レベルにあります。また、アパルトヘイト時代に義務教育において数学と物理を禁止した影響で、当時10代を過ごした世代の黒人は義務教育で数学的知識に乏しく、それが経済にボディーブローのように影響を与えています。人々は政府を信用せず、国営の電力会社は汚職にまみれ、計画停電が常態化し、不法移民は増え続け、南ア社会は多くの課題を抱えています。それが、歓喜と興奮の1995年の27年後の南アフリカの現実です。

タウンシップ(スラム)の光景。ゴミ処理など公衆衛生上大きな課題がある

それでもアントレプレナーたちは逞しく自分達の足で立ち、政府が頼れないなら自分達の力でビジネスを成功させると意欲に溢れています。BRICKSの一角を担う南アフリカはモザンビークやナミビアなど周辺国からの人口流入も多く(不法入国も多いですが)、経済は成長し続けています。

今回、農業分野のアントレプレナー達のビジネスの現地を訪れ、彼らと対話をし、彼らがどこからきて、何を志して、どういう課題があって、何を求めているのか、その背景を何とか知ろうとしてきました。彼らは日本人の私たちに対してとてもオープンに心を開いて自分達の話をしてくれました。

その中で特に印象的だったのは多様性レイヤーの多さです。
日本で多様性というと、ジェンダー、障がい、セクシャル(LGBTQ)といったことが話題に上がりますが、彼らはそれに加え民族、言語、出身国、アパルトヘイトの経験の有無など、様々なレイヤーが重層的に重なっています。

私たち日本人は、社会の構成員の前提条件の多くが共通するいわば多様性の乏しい社会にいます。ただ南アのような多様性の豊かな社会では、視野・視座・視点を意識的に変えて各レイヤーを注意深くみようとしないと、そこに連なる文脈(=コンテクスト)が見えてきません。コンテクストが見えないと、そこで起きている現象の本当の意味を理解することができません。裏を返せば、そうしたスキルとマインドを持って他者に接することができれば、世界中どこでも、表層的な事象の奥にあるものを見ることができ、現象の意味がより理解できるようになるでしょう。日本の足元を見ても、移民の受入やインバウンド受入など、多国籍・多民族の人達に接する機会は今後さらに増えていきます。そうした意味でも大きなヒントになったと感じています。

他方、日本の自然の豊かさ、そこで育まれてきた文化の豊かさを改めて実感しました。飛行機の窓から見た永遠と続く赤茶けた大地。植物にとっても、人間にとっても過酷な環境と言えます。それが自然との向き合い方、人々の暮らし、文化に反映されています。自然は人間が支配するものであり、農業手法は大規模・集約型のモノカルチャー的で、食文化も決して豊かとは言えません。

円形の農地(センターピボット)が広がる
(参考:http://blog.livedoor.jp/earthcolor0826/archives/1485440.html)

それに対して日本の国土の7割は森林で、空から見た景色は全く異なります。植物は伐採しても再生し、放っておくと森に覆われます。農業者にとっても、夏の草刈は過酷で解放されたい仕事No.1です苦笑。それは、ひとえに日本の自然の力が圧倒的だからです。そうした自然と人との接点の象徴的な場所が「里山」です。接点で常にせめぎ合ってきた歴史の中で、人が自然と共に生きる知恵、災害にもへこたれずに回復するレジリエンス、自然の恵みに感謝する精神性、それらを最大限に生かすための食文化、集団で生き抜くための共同体の様々なルール・・・これらが日本各地で育まれ、それが連綿と受け継がれてきました。近代化によって、そうした生活に根差した知恵や文化は失われつつあることは確かです。ただ、おじいちゃんおばあちゃんの世代まではそうした生活を普通に行っていて、少し田舎に足を延ばせばこうした自然に根差して地域毎に育まれた豊かな文化に触れることができます。そうしたDNAは現代を生きる私たち日本人の中にも確実にあります。そうした自然の中で育まれてきた日本の文化は、南アフリカの人達にとっては大きな学びとなるでしょう(もちろん、都市に生きる日本人にとっても、です)

椎葉村(宮崎県)
参考:https://miyazakimountain.net/?p=325

これから縮退社会に入っていく日本において、日本の自然に根差した知恵や文化に再度目を向け、時代に合わせてアップデートしていくことが重要だと私は思います。それはとても創造的なプロセスであると感じます。
宝は既に足元にあります。それを現代に生きる私たちがいかに自分達なりにアレンジをして、ビジネス的に言えばマネタイズして、次世代に引き継いでいくか、世界に向けて発信していくかが問われています。自分は「ソーラーシェアリング」という手法にフォーカスして取り組んでいますが、手法は人の数だけあっていいと思います。そうしたチャレンジが日本各地で行われ、自然と共に暮らし、生き生きと働く人が増えていくことを願っています。それは日本のひとつの希望であり、日本が世界に誇るべき財産になると信じています。南アの体験を通して、翻って自分たちの足元を見つめ直すきっかけとなりました。

将来、今回南アで出会った誰かとビジネスをやることになるかもしれないし、現時点ではそれはまだわかりません。ただ、たくさんの素晴らしい人達との出会いと、他に代え難い学びがありました。そうした機会をいただけて本当に感謝しています。来年5月には彼らが日本にやってくることになっているので、今から楽しみです。南ア特別編は一旦ここで終わります。お付き合いいただいてありがとうございます!!!

(おわり)


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