詩 『終わりのない夢』
作:悠冴紀
おじさんは星を見るのが好きだった
夜が来るといつも
星たちに微笑みかけていた
陽の光が優しく注がれる初春の午前
斜め前の家の中
おじさんは夢の世界から抜け出せなくなっていた
発見したのは 訪ねてきたおじさんの弟
窓ガラスを割って家の中へ
「兄貴! 兄貴!」
何度呼んでも返事はない
沈黙、頼りない足取り、
寂しい背中、涙……
こんなに陽の溢れる美しい日に
おじさんは逝ってしまった
桜の花も 見ないまま──
おじさんは星を見るのが好きだった
空の星たちに「また明日」と告げたあと
四角い家にたった一人
いつものように布団に入り
二度とは開かない扉の向こう側へと
消え去った
どんな夢を見ていたのだろう
星の好きなあのおじさんは
一体誰が想像しただろう
予告もなく 前触れもなく
終わりのない夢が訪れようとは
こんなに陽の溢れる美しい日に
おじさんは
桜の花を見ないまま
逝ってしまった
今日の星たちに会わないまま
逝ってしまった
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※1994年(17歳当時)の作品。
この詩は、私がまだ兵庫の田舎にいた高校生時代に、実際に目撃したことをそのまま生々しく描写した一作です。
つい前日まで、いつも通りに夜空を眺めて一服する姿を見かけていた近所のおじさんの突然の死と、その家族の反応は、私の記憶に鮮明に焼き付いています。
最近の作品に比べると、表現が拙く青臭い印象がありますが、その分、当時の衝撃がダイレクトに伝わる一作でもあるかと思います。
今年の春は、花見どころか外出すること自体 最低限に控えなくては……という異例の状況。そんな中、例年のようには人目に触れることもないまま、ハラハラと散っていく桜の花弁のように、命ばかりが失われていく今日この頃、ふとこの懐かしい作品を思い出して、公開してみました。
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