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裁量労働制(拡大)をめぐり岸田内閣労働政策と経団連2022年度事業方針を比較

岸田内閣の労働政策として「規制改革推進に関する答申」(5月27日公表)および「経済財政運営と改革の基本方針2022」(6月7日閣議決定)と経団連「2022年度事業方針」(6月1日公表)における裁量労働制(拡大)をめぐる記載内容を比較。

経団連の事業方針「裁量労働制の対象拡大の早期実現等、労働時間と成果が比例しない働き手の能力発揮を可能とする労働時間法制の見直し」。閣議決定の骨太方針「裁量労働制を含めた労働時間制度の在り方について、裁量労働制の実態調査の結果やデジタル化による働き方の変化等を踏まえ、更なる検討」。

経団連・事業方針「裁量労働制の対象拡大」

経団連(一般社団法人 日本経済団体連合)は(2022年)6月1日に「サステイナブルな資本主義を実践する-2022年度事業方針-」を公表したが、そこに「裁量労働制の対象拡大の早期実現等、労働時間と成果が比例しない働き手の能力発揮を可能とする労働時間法制の見直しを目指す」と記載されている。

経団連は(今年度事業方針だけではなく、これまでも事業方針に記載されていたことだが)「裁量労働制の対象拡大の早期実現」と裁量労働制対象(適用)拡大を政府に求める方針を明確にしている。

働き方の変革と人への投資、教育改革の推進
・裁量労働制の対象拡大の早期実現等、労働時間と成果が比例しない働き手の能力発揮を可能とする労働時間法制の見直しを目指す。
・成長分野・産業等への円滑な労働移動に資する環境整備を働きかける。
・「学びと仕事の好循環」の確立を目指し、産学官連携によるリカレント教育・リスキリング、インターンシップを含む学生のキャリア形成支援活動等を推進する。また、新しい時代に対応した教育改革を働きかける。
・働き方改革の深化とともに、多様な人材の活躍を力にするダイバーシティ&インクルージョンの推進や各企業の実情に適した「自社型雇用システム」の検討を呼びかける。
・「人への投資」と「働き手への適切な分配」の観点から、「賃金決定の大原則」に則りつつ、賃金引上げと総合的な処遇改善に取り組むよう、引き続き働きかける。
・「パートナーシップ構築宣言」への参加を通じ、取引適正化を推進する。(経団連「サステイナブルな資本主義を実践する-2022年度事業方針」-」抜粋)

また、経団連が(2022年)5月9日に公表した「当面の課題に関する考え方」には「働き手の健康確保を前提とした裁量労働制の対象拡大等、自律的・主体的な働き方に適した新しい労働時間制度の実現を目指す」と書かれている。

つまり、6月公表の事業方針には「裁量労働制の対象拡大」としかないが、5月公表の当面の課題に関する考え方には「働き手の健康確保を前提とした」が付け加えられている。むしろ、5月公表の考え方には「働き手の健康確保を前提とした」とあったが、6月公表の方針には削除されている。

働き方改革と人材育成
改正雇用保険法(4月1日施行)により規定された機動的な国庫繰入の実効性の確保を引き続き求めるとともに、制度の持続可能性のため、雇用保険財政再建に向けた検討を急ぐべきである。6月末まで延長された雇用調整助成金の特例措置の今後の扱いについては、雇用情勢と新型(略)ウイルスの感染状況を注視し、雇用保険財政も十分踏まえながら、慎重に検討する必要がある。

また、働き手のエンゲージメント向上に着目し、働き方改革の深化を促すとともに、イノベーションの源泉となるダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みを加速する。その一環として、テレワークの活用など多様で柔軟な働き方を推進するとともに、働き手の健康確保を前提とした裁量労働制の対象拡大等、自律的・主体的な働き方に適した新しい労働時間制度の実現を目指す。

「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」が4月18日に公表した2021年度報告書のフォローアップとして、大学等と連携したリカレント教育の促進や、インターンシップをはじめとした学生のキャリア形成支援活動の周知・推進に取り組む。また、大学教育改革提言(2022年1月公表)に基づき、大学をめぐる内外の環境変化等を踏まえた大学設置基準の見直しやリカレント教育の促進等を関係方面に働きかける。(経団連「(2022年5月)当面の課題に関する考え方」抜粋)

規制改革推進会議・規制改革推進に関する答申

内閣総理大臣諮問機関・規制改革推進会議の第13回会議が(2022年)5月27日)にオンライン開催されたが、議題は「規制改革推進に関する答申(案)について」。そして、規制改革推進会議開催後、「規制改革推進に関する答申」が内閣府サイトで公表された。

内閣府サイトで公表された「規制改革推進に関する答申」には「3.人への投資」「(3)柔軟な働き方の実現に向けた各種制度の活用・見直し」の中に「ア 労働時間制度(特に裁量労働制)の見直し」という項目がある。

その項目の中に「裁量労働制については、(厚生労働省「これからの労働時間制度に関する検討会」において)健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行うとともに、労働者の柔軟な働き方や健康確保の観点を含め、裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って労使双方にとって有益な制度となるよう十分留意して検討を進める」と記載されている。

つまり、裁量労働制に関しては経団連方針のように「対象(適用)拡大」といった言葉はないが(もちろん否定もされていない)、「健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行う」と政府(厚生労働省)の実施事項として書かれている。

3.人への投資
(3)柔軟な働き方の実現に向けた各種制度の活用・見直し
ア 労働時間制度(特に裁量労働制)の見直し
【a:令和4年度中に検討・結論、結論を得次第速やかに措置、b:令和4年度検討開始】

<基本的考え方>
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)により、罰則付きの時間外労働の上限規制や高度プロフェッショナル制度が設けられ、働く方がその健康を確保しつつ、ワークライフバランスの実現を図り、能力を有効に発揮することができる労働環境整備が進められているところであるが、裁量労働制については、時間配分や仕事の進め方を労働者の裁量に委ね、自律的、創造的に働くことを可能とする制度であるものの、対象業務の範囲や労働者の裁量と健康を確保する方策等について課題が指摘されている。
現在、厚生労働省では裁量労働制実態調査の結果を踏まえて制度の見直しに関する検討が行われているが、その際、上記の労働環境整備の趣旨を踏まえれば、裁量労働制だけでなく、それ以外の労働時間制度も含めて、その在り方について広く検討することが求められる。
また、労働基準法(昭和22年法律第49号)では、事業場単位で労使協定等を
締結することとされ、届出等も原則「事業場単位」で行われているが、本社主導で人事制度を検討・運用する企業もある中、「本社一括届出」が可能とされている手続は就業規則や 36 協定等に限定されている。また、各種届出は電子申請が可能とされているものの利用率が低く、より企業の利便性を高める必要がある。
以上の基本的考え方に基づき、以下の措置を講ずるべきである。

<実施事項>
a 厚生労働省は、働き手がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる環境整備を促進するため、「これからの労働時間制度に関する検討会」における議論を加速し、令和4年度中に一定の結論を得る。その際、裁量労働制については、健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行うとともに、労働者の柔軟な働き方や健康確保の観点を含め、裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って労使双方にとって有益な制度となるよう十分留意して検討を進める。同検討会における結論を踏まえ、裁量労働制を含む労働時間制度の見直しに関し、必要な措置を講ずる。

b 厚生労働省は、労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)上の労使協定等に関わる届出等の手続について、労使慣行の変化や社会保険手続を含めた政府全体の電子申請の状況も注視しつつ、「本社一括届出」の対象手続の拡大等、より企業の利便性を高める方策を検討し、必要な措置を講ずる。(「規制改革推進に関する答申」41頁~42頁)(規制改革推進会議「規制改革推進に関する答申」抜粋)

規制改革推進に関する答申(全文)(PDFファイル)

規制改革推進に関する答申と経団連方針との比較

「規制改革推進に関する答申」と経団連「当面の課題に関する考え方」とに記載された裁量労働制に関する記述を比較すると、「規制改革推進に関する答申」には「対象拡大」とは書かれていないが、経団連「当面の課題に関する考え方」(および2022年度事業方針)には「対象拡大」と書かれている。

また、「規制改革推進に関する答申」には「健康・福祉確保措置」とあるが、経団連「当面の課題に関する考え方」には「健康確保」とあり、経団連2022年事業方針には「健康確保」といったことにはふれていない。

さらに「規制改革推進に関する答申」には「労使コミュニケーションの在り方」とあるが、経団連「当面の課題に関する考え方」に経団連「2022年事業方針」にも「労使コミュニケーションの在り方」などといった表現は見受けられない。

裁量労働制に関する労使コミュニケーション問題

厚生労働省が公開している「これからの労働時間制度に関する検討会」の資料や議事録(ヒアリングに関しては会社や労働組合の名称を公表しないで非公開で行われたため「議事概要」)を読むと、裁量労働制に関して「健康・福祉確保措置」とともに「労使コミュニケーションの在り方」が問題にされている。

「これからの労働時間制度に関する検討会」の議論が始まる前から、裁量労働制の長時間勤務や不規則勤務による健康被害が指摘されていたため、厚生労働省も裁量労働制見直しにおいては健康確保措置について何らかの配慮する規定が必要と考えていたようだ。

しかし、労使コミュニケーションについては厚生労働省も「これからの労働時間制度に関する検討会」の議論が始まる前は特に問題とは思っていなかったようだが、「これからの労働時間制度に関する検討会」が実施したヒアリングや議論の中で提起された問題。

裁量労働制では「労使委員会」が重要な働きをするが、検討会では労使委員会のことも知らない社員・職員(裁量労働制適用者)がいることが明らかにされたが、裁量労働制で最も重要な「労使委員会」が機能していない。

そして、対象者からの「同意」も適切に得られているかどうか、などといった問題が、裁量労働制に関する労使コミュニケーション問題になるであろう。

企画業務型裁量労働制の導入の流れ
1 導入可能な事業場は対象業務が存在する事業場です
2 労使委員会を組織します
 ○ 準備について労使で話し合う
 ○ 労使委員会の委員を選ぶ
 ○ 運営のルールを定める  
3 企画業務型裁量労働制の実施のために労使委員会で決議をします
4 対象となる労働者の同意を得ます →Q4  
5 3の決議に従い企画業務型裁量労働制を実施します。  定期報告((3の決議から6カ月以内ごとに1回)
6 決議の有効期間(3年以内とすることが望ましい)の満了(継続する場合は、3へ)(厚生労働省サイト「企画業務型裁量労働制」抜粋)

企画業務型裁量労働制(厚生労働省サイト)

「経済財政運営と改革の基本方針2022」閣議決定

「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」(骨太方針2022)が経済財政諮問会議での答申を経て、昨日(2022年年6月7日)閣議決定された。

この「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針2022)には裁量労働制に関する記載は詳しくされてないが、「裁量労働制を含めた労働時間制度の在り方について、裁量労働制の実態調査の結果やデジタル化による働き方の変化等を踏まえ、更なる検討を進める」とだけ書かれている。

多様な働き方の推進
人的資本投資の取組とともに、働く人のエンゲージメントと生産性を高めていくことを目指して働き方改革を進め、働く人の個々のニーズに基づいてジョブ型の雇用形態を始め多様な働き方を選択でき、活躍できる環境の整備に取り組む。
こうした観点から、就業場所・業務の変更の範囲の明示など、労働契約関係の明確化に取り組む。専門知識・技能を持った新卒学生や既卒数年程度の若者について、より一層活躍できるようにする観点から、その就職・採用方法を産・学と共に検討し、年度内を目途に一定の方向性を得る。裁量労働制を含めた労働時間制度の在り方について、裁量労働制の実態調査の結果やデジタル化による働き方の変化等を踏まえ、更なる検討を進める。フリーランスについて、事業者がフリーランスと取引する際の契約の明確化を図る法整備や相談体制の充実など、フリーランスが安心して働ける環境を整備する。
ポストコロナの「新しい日常」に対応した多様な働き方の普及を図るため、時間や場所を有効に活用できる良質なテレワークを促進する。労働移動の円滑化も視野に入れながら、労働者の職業選択の幅を広げ、多様なキャリア形成を促進する観点から副業・兼業を推進するほか、選択的週休3日制度については、子育て、介護等での活用、地方兼業での活用が考えられることから、好事例の収集・提供等により企業における導入を促進し、普及を図る。また、地域に貢献しながら多様な就労の機会を創る労働者協同組合についてNPO等からの円滑な移行等を図る。
国家公務員について、既存業務の廃止・効率化、職場のデジタル環境整備、勤務形態の柔軟化などを通じた働き方改革を一層推進するとともに、採用試験の受験者拡大やデジタル人材を含めた中途採用の円滑化、リスキリングなど人材の確保・育成策に戦略的に取り組む。 (岸田内閣「経済財政運営と改革の基本方針2022」抜粋)

経済財政運営と改革の基本方針2022(PDFファイル)

裁量労働制(拡大)に関する投稿記事の一覧

裁量労働制(拡大)に関するnote(ノート)への投稿記事タイトルとリンクを新しい投稿順に掲載。

なお、最初に投稿した裁量労働制(拡大)に関する記事(つまり最も古い裁量労働制に関する記事)は、2021年6月24日に投稿した「裁量労働制拡大に向け再始動-裁量労働制実態調査検討会1年2ヵ月ぶり開催-」。

・裁量労働制など労働時間制度の見直し(規制改革推進に関する答申)

・裁量労働制の健康確保措置としての「つながらない権利」

・これからの労働時間制度に関する検討会(第13回)厚生労働省裁量労働制検討会

・人事院テレワーク有識者会議「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会」と裁量勤務制(裁量労働制)拡大

・裁量労働制見直しと労働基準法改正と厚生労働省検討会ー裁量労働制拡大は?ー

・厚生労働省「裁量労働制見直し」とは裁量労働制対象拡大を含む見直しなのか?

・裁量労働制の見直し(規制改革推進会議「当面の規制改革の実施事項」)

・人への投資ワーキング・グループ(規制改革推進会議の新たなWG)

・裁量労働制ヒアリング議事概要(厚生労働省の裁量労働制に関する検討会)

・厚生労働省の裁量労働制に関する検討会と裁量労働制対象(適用)拡大について

・裁量労働制に対する考え方(連合)、裁量労働制の検討状況(厚生労働省)

・裁量労働制拡大とハラスメント防止法について政党が衆議院選アンケートに回答

・裁量労働制に関する厚生労働省検討会-第1回検討会における問題提起

・堤明純教授発言(第1回これからの労働時間制度に関する検討会議事録抜粋)

・裁量労働制対象(適用)拡大と経団連

・「裁量労働制実態調査のデータを用いた裁量労働制の適用・運用実態等の分析研究」(厚生労働科学特別研究)

・厚生労働省「これからの労働時間制度に関する検討会」(第1回)本日開催

・規制改革実施計画(閣議決定)と裁量労働制検討開始(厚労省新検討会設置)

・これからの労働時間制度に関する検討会ー厚生労働省が新たな検討会を設置

・裁量労働制実態調査と新たな裁量労働制検討会の設置-厚生労働省

・裁量労働制に関する田村厚労大臣発言

・高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況 厚生労働省公表

・裁量労働制対象(適用)拡大とは

・裁量労働制実態調査と裁量労働制適用拡大に関する社説をめぐって

・裁量労働制実態調査結果 厚労省公表

・裁量労働制拡大に向け再始動-裁量労働制実態調査検討会1年2ヵ月ぶり開催-

追記:これからの労働時間制度に関する検討会 報告書

厚生労働省は(2022年)7月15日、第16回「これからの労働時間制度に関する検討会」を開催し、「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書案を議論し、その日に厚生労働省は「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書(本文、概要、参考資料)を公表。

公表された「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書の概要には、裁量労働制の対象業務について「現行制度の下での対象業務の明確化等による対応」「対象業務の範囲は経済社会や労使のニーズの変化等も踏まえて必要に応じて検討」と記載され、本文には「対象業務の範囲については、前述したような経済社会の変化や、それに伴う働き方に対する労使のニーズの変化等も踏まえて、その必要に応じて検討することが適当」と書かれている。

また、「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書の概要には「勤務間インターバル制度について、当面は、引き続き、企業の実情に応じて導入を促進。また、いわゆる『つながらない権利』を参考にして検討を深めていく」と記載され、本文には勤務間インターバル制度については「当面は、引き続き、企業の実情に応じて導入を促進していくことが必要である」とあり、そして「海外で導入されているいわゆる『つながらない権利』を参考にして検討を深めていくことが考えられる」と書かれている。

追記:労政審分科会の経団連委員が裁量労働制対象業務拡大を要求

2022年7月15日に「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書を厚生労働省が公表したが、報告書には裁量労働制対象業務の検討などが記載されている。

そして、7月27日に開催された第176回 労働政策審議会 労働条件分科会(労働政策審議会は厚生労働大臣諮問機関)では「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書について説明され、使用者側委員および労働者側委員が意見を述べている。

第176回 労働条件分科会 裁量労働制労使議論

2022年7月27日に開催された第176回 労働政策審議会 労働条件分科会において(厚生労働省サイトに公開された議事録によると)鬼村洋平 委員(トヨタ自動車株式会社人事部労政室長)は「裁量労働制は、きちんと使えば大変有意義な、有効な制度であると思っておりますので、一定の健康管理、健康確保というのは前提としつつも、必要に応じて対象業務を見直して、対象業務を適宜拡大していって、裁量労働制が幅広く活用されるような議論になっていくように考えています」と発言。

また、鳥澤加津志委員(株式会社泰斗工研代表取締役)も「裁量労働制について、一つ一つの業務量が少なかったり、マンパワーが少なかったりする中小企業においては、一人の労働者が複数の業務を行うことが多々ございます。そのため、中小企業でも裁量労働制を運用しやすくなるようにする前提として、健康確保や労使コミュニケーション推進を担保しつつ、現行制度の下で実態把握や検証に努めたうえで、対象業務の拡大について引き続き検討していただきたい」と意見を述べた。

山内一生委員(株式会社日立製作所人事勤労本部エンプロイーリレーション部長)もまた「日本においての労働生産性を高めていく、並行して従業員のエンゲージメントも高めていくためには、テレワークの活用や柔軟な勤務制度の導入など、いわゆる勤務の時間と場所の選択肢の拡大について各社とも様々な工夫を進めているところでありまして、裁量労働制の対象業務の拡大については期待する企業が非常に多いのが現状でございます」と発言。

これらの使用者側委員の裁量労働制対象業務拡大を求める意見に対して、労働者側委員は次のように反対する意見を述べている。

北野眞一委員(情報産業労働組合連合会書記長)は「(これからの労働時間制度に関する検討会)報告書に『企画型(裁量労働制)が制度として定着してきたことを踏まえ』との記載がありますが、これは現場の労使の尽力によるものだということは重々頭に入れておかなければならないと思っております。そこで、負担の軽減のほかに、企画型の労使委員会決議や、さらには専門型の労使協定の本社一括届出等の手続の簡素化などについても提言されていますが、と労働者側としては考えております」と発言。

また、冨髙裕子委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局総合政策推進局長)は「まずは制度趣旨に沿った現行制度の課題を改善すること、また、適切な運用を進めることが重要だと考えております。その観点から考えますと、使用者側から対象業務拡大の意見がありましたけれども、労働側としましては、対象業務拡大の部分も含めて安易に裁量労働制の拡大を図るべきではないと考えています」と述べて、経団連等から選出された使用者側委員の裁量労働制対象業務拡大を求める意見に対する反対姿勢を表明した。

追記:裁量労働制対象業務拡大・労使議論の経過

厚生労働大臣諮問機関・労働政策審議会の労働条件分科会で経団連などの使用者側委員が裁量労働制対象業務拡大を強く要求しているが、連合などの労働者側委員が激しく反論している。

この裁量労働制に関する議論は2022年7月27日に開催された第176回 労働条件分科会(この分科会で「これからの労働時間制度に関する検討会報告書」が報告された)から始まり、現在(2022年12月22日)、昨日(12月20日)開催された第186回 労働条件分科会においても労使議論が継続している。

第186回 労働条件分科会後、朝日新聞社の澤路編集委員は、個人のツイッターアカウントで労働条件分科会での裁量労働制議論について「今日の議論では、専門業務型でも本人同意を要件とすることについて、使用者側がほぼ同意。対象拡大については、なお、結論は見えず」とツイートしている。

なお、裁量労働制が議論された労働条件分科会は第176回、第177回、第179回、第181回、第182回、第183回、第184回、第185回、第186回(澤路編集委員のツイートから推測すると今後も継続しそう)となるが、議事録につては現時点(2022年12月22日)では第176回、第177回、第179回の議事録を厚生労働省は公開している。

なお、第176回、第177回、第179回の議事録に記載されている労使委員の裁量労働制対象業務拡大に関する意見は、次の記事(「裁量労働制 拡大 労使議論(厚生労働省 労働政策審議会 労働条件分科会)」)にまとめている。

労働政策審議会労働条件分科会の資料に基づき毎日新聞社が作成

追記:専門型裁量労働制にM&A考案・助言業務を追加

本日(2022年12月27日)、厚生労働大臣諮問機関・労働政策審議会の第187回 労働条件分科会が開催され、「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)(案)」を了承し、厚生労働省は「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」を公表した。

朝日新聞デジタルは「事前に決めた時間だけ働いたとみなして賃金を払う『裁量労働制』を適用する対象に、銀行や証券会社でM&A(企業合併・買収)の考案・助言をする業務が加わる。厚生労働省の審議会が27日、正式に決めた。業務の追加は約20年ぶり。2023年に省令などを改正し、24年に施行する見通しだ」(朝日新聞デジタル『裁量労働制、「M&Aの考案・助言」も対象に 業務追加は20年ぶり』2022年12月27日配信)と報じた。

労働政策審議会・労働条件分科会の使用者側委員は専門型ではなく企画型裁量労働制にPDCA業務などの追加を要求していたが、労働者側委員の強い反対意見もあり、今回は見送られることになり、銀行や証券会社で顧客に対するM&A(企業合併・買収)の考案・助言をする業務のみが専門型裁量労働制が加わることとなった。

1 裁量労働制について
(1)対象業務
○ 企画業務型裁量労働制(以下「企画型」という。)や専門業務型裁量労働制(以下「専門型」という。)の現行の対象業務の明確化を行うことが適当である。
銀行又は証券会社において、顧客に対し、合併、買収等に関する考案及び助言をする業務について専門型の対象とすることが適当である。

(2)労働者が理解・納得した上での制度の適用と裁量の確保
(対象労働者の要件)
○ 専門型について、対象労働者の属性について、労使で十分協議・決定することが望ましいことを明らかにすることが適当である。
○ 対象労働者を定めるに当たっての適切な協議を促すため、使用者が当該事業場における労働者の賃金水準を労使協議の当事者に提示することが望ましいことを示すことが適当である。
○ 対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更しようとする場合に、使用者が労使委員会に変更内容について説明を行うこととすることが適当である。
(本人同意・同意の撤回)
○ 専門型について、本人同意を得ることや同意をしなかった場合に不利益取扱いをしないこととすることが適当である。
○ 本人同意を得る際に、使用者が労働者に対し制度概要等について説明することが適当であること等を示すことが適当である。
○ 同意の撤回の手続を定めることとすることが適当である。また、同意を撤回した場合に不利益取扱いをしてはならないことを示すことや、撤回後の配置や処遇等についてあらかじめ定めることが望ましいことを示すことが適当である。
(業務量のコントロール等を通じた裁量の確保)
○ 裁量労働制は、始業・終業時刻その他の時間配分の決定を労働者に委ねる制度であることを示すことが適当である。
○ 労働者から時間配分の決定等に関する裁量が失われた場合には、労働時間のみなしの効果は生じないものであることに留意することを示すことが適当である。

(3)労働者の健康と処遇の確保
(健康・福祉確保措置)
○ 健康・福祉確保措置の追加(勤務間インターバルの確保、深夜業の回数制限、労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の適用解除)、医師の面接指導)等を行うことが適当である。
○ 健康・福祉確保措置の内容を「事業場における制度的な措置」と「個々の対象労働者に対する措置」に分類した上で、それぞれから1つずつ以上を実施することが望ましいことを示すことが適当である。
○ 「労働時間の状況」の概念及びその把握方法が労働安全衛生法と同一のものであることを示すことが適当である。
(みなし労働時間の設定と処遇の確保)
○ みなし労働時間の設定に当たっては対象業務の内容、賃金・評価制度を考慮して適切な水準とする必要があることや対象労働者に適用される賃金・評価制度において相応の処遇を確保する必要があることを示すこと等が適当である。

(4)労使コミュニケーションの促進等を通じた適正な制度運用の確保
(労使委員会の導入促進と労使協議の実効性向上)
○ 決議に先立って、使用者が労使委員会に対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容について説明することとすることが適当である。
○ 労使委員会が制度の実施状況の把握及び運用の改善等を行うこととすること等が適当である。
○ 労使委員会の委員が制度の実施状況に関する情報を十分に把握するため、賃金・評価制度の運用状況の開示を行うことが望ましいことを示すことが適当である。
○ 労使委員会の開催頻度を6か月以内ごとに1回とするとともに、労働者側委員の選出手続の適正化を図ることとすること等が適当である。
○ 専門型についても労使委員会を活用することが望ましいことを明らかにすることが適当である。
(苦情処理措置)
○ 本人同意の事前説明時に苦情の申出方法等を対象労働者に伝えることが望ましいことを示すことが適当である。
○ 労使委員会が苦情の内容を確実に把握できるようにすることや、苦情に至らないような運用上の問題点についても幅広く相談できる体制を整備することが望ましいことを示すことが適当である。
(行政の関与・記録の保存等)
○ 6か月以内ごとに行うこととされている企画型の定期報告の頻度を初回は6か月以内に1回及びその後1年以内ごとに1回とすることが適当である。
○ 健康・福祉確保措置の実施状況等に関する書類を労働者ごとに作成し、保存することとすることが適当である。
○ 労使協定及び労使委員会決議の本社一括届出を可能とすることが適当である。

今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)

*ここまで読んでいただき感謝!