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【小説】恋の幻想

やるせない日々の中、私は高校生になった、あの家に居て高校に行かせてもらったのが不思議なくらいだが、世間体が親に圧力を掛けたのだろう。

「高校は行かせてあげるから、卒業したら働くのよ。」自分でもそうなるだろうと考えていた事態なので、不思議では無かった。

獣との日々も続いていた、親は両方無関心で朝は自分で食べていくが、お弁当が無いのは辛かった。

食材を使って良いのなら自分で作るのだが、それが許されるとは思えなかったから、訴えるのは止めにした。

一般的な高校生は親が作った弁当を食べていた、きっと兄も食べていたのだろう。

一般的な高校生ってのが私には解らなかった、それが良いとも思わなかった、それでも私よりは良い世界に居るのだと感じていた。

その頃は、ただ自分の置かれた状態を変える為に動く体が有って、その体は今は本当には自分の物では無く、あの獣の玩具なのだと思っていた。

「あのさ、普通はさー、アルバイトして化粧したりするじゃない、何でアルバイトしないの?」高校に入ると知り合いが増えて、教えてもらう事が多くなった。

アルバイトか、親に言わなくても出来る物なのかな、言えば問題になるかも、兄にお金を取られる心配もある。

「アルバイトしたいけど、親には言いたくないから。」小さい声が出て、自分でも驚いていた。

「私の親戚の家で、アルバイト募集してもあんまりいつかない、って困ってる所が在るの、そこに紹介しようか?」彼女に家の話をしたりはしていない。

だけど、解っている様だ、私の様子で何かを察しって居たのかも知れない、親に知られると面倒だが。

「ありがとう、アルバイトしたかったの。」とだけ言って於く、それ以上は言わない方が良い、これまでの人生で自分を主張したり、説明したりするのは状況を変えないと解っていたからだ。

「じゃあ、おじさんに連絡しておくね。」親切に言ってくれる、他人は親切で家族は違う、ここが私の現実なのだ。

アルバイトを始めると思いのほか楽しい、接客は向いていないと思っていたから、これでお金も貰えるのかと考えていた。

「接客って人を怒らす人間も多いけど、忍ちゃんはちゃんとしているから良かった、言葉遣いは親から貰った物だから、感謝しなくちゃね。」おばさんが言ってくれた。

何も知らない癖にそう思った、だけど親から貰った物って在るんだな、これまでの生活は無駄では無かったんだな、自分の頭に張り付いた感覚が一部剥がれそうになっていた。





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