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軽妙な逸脱|『LETO』(キリル・セレブレンニコフ,2018)
ヴィクトル・ツォイを初めて目にしたのは、映画『ASSA』(セルゲイ・ソロヴィヨフ,1987)だった。エンディングで「変革を待っている(Мы ждем перемен.)」とマイクを握る姿が文化的革命の寵児そのものに見えて、大学二年生のウブな私はころりと惚れてしまった。
『ASSA』に感化されていた私は、もちろん熱を帯びた眼差しで『LETO』を見たのだが、良い意味で腰が抜けた。ツォイ含めるロッカー
Greenからのリスタート|映画ログ『Daughters』(津田肇, 2020)
親友という関係は、実に曖昧で、意外と緊張する。「境界」を超えてしまったのではないかと、ドキリとすることが度々ある。
親友、ベストフレンド、マブダチ。これの肩書きは、曖昧な関係を「仮置き」できるから本当に便利だ。だけど、この枠組みは、ほんの些細なきっかけでヒョイっと超えられてしまう。
小春(三吉彩花)と彩乃(阿部純子)のルームメイトという関係も、「境界」を溶かしながら少しずつ変わっていく。仲睦ま
"understand"を諦めた先に|映画ログ『名もなき生涯』(テレンス・マリック, 2019)
映画について語る時、大学で聞きかじった映画理論を小賢しくも使ってみたくなる。この構図はこんなモチーフだとか、精神分析学的にはこんな無意識下を表現しているだとか…
そんな小賢しくちっぽけな私をすっぽりと包むほどに、この映画は「大きな」経験であった。
『祈り』のさざめき本作は、実在したオーストリアの農夫であるフランツ・イェーガーシュテッターの物語である。第二次世界大戦下、ドイツに併合されたオースト