『創造的な習慣』林 尚志 前篇
OKAZU brand を2007年に立ち上げて以来、日本のアナログゲームシーンを引っ張ってこられた林尚志(はやし・ひさし)さんは、いまや海外の出版社からも数多くのゲームをリリースされている日本を代表するアナログゲームデザイナーです。
主な作品リスト
『ひも電』『EKIDEN』『Trick of the Rails』 『Trains』『デカスロン』 『セイルトゥインディア』『ISARIBI/漁火』『Rolling Japan』『ミネルウァ』『ゴー・ダッ・チーズ』『はんか通骨董市』『横濱紳商伝』『ジャングリラ』他多数
優れた作品を創作し続けているアナログゲームのデザイナーに対して、Saashi & Saashi が定型的な質問を用意し、それに回答してもらうという、このインタビュー企画『創造的な習慣〜アナログゲームデザイナーはいかにしてクリエイトするのか』においてまず初めにお話をお伺いしたかったのが林尚志さんでした。
緻密に練りこまれた大きなスケールのボードゲームから、遊び心に溢れた小さなゲームまでを手掛けるそのクリエイティヴィティは、林さんのどういったところから生み出されているのか。ロングインタビューを敢行してまとめた全記事を三分割し、まずは前篇をここにお届けします。(中篇、後篇はこちら)
創造のスタート
── 林さんにとって、ゲームデザインという作業はどうやって始まるのですか。
林 まずアイデアをメモしています。お笑い芸人のネタ帳みたいな感じで毎日メモ書きしてるんです。普段からアイデアはいろんなところにちらばっているんですけど。それはノートだったり、パソコンのメモ帳だったり、Evernoteだったりしますが、アイデアは常に書くようにしていますね。
── 精力的にアイデアの種を集めていらっしゃるのですね。アイデアを思いついてから、すぐにテストキットを作り始めますか。
林 メモすること自体は簡単なことなんですが、そこから最初のテストプレイにもっていくまでの気力を奮い起こすのが一番大変なんです。たとえば「すごい天才的なアイデアが浮かんだ!」とたまに思うことあるんですけど、いざそれをデータに起こしてみたらそれほどでもなくてガックリ、みたいなこともよくあるんですよね。
── データに起こすというのはメモ書きのアイデアをパソコン内でデータ化するということですか。
林 パソコンでの作業です。たとえば神経衰弱のゲームを作りたいと思って、カードにいろんな属性をもたせようとしたとします。そこでいろんな属性をパワーポイント(PowerPoint)に書き込んでいくんですよ。それが終われば、ようやくテストプレイができるんですが、そこへ至るまでの道のりで投げ出すことが多くて。
── アイデアを形にしてみると、思ったより良くないという場合が多いのですか。
林 データにする前の段階で、属性のパターンを瞬間的に3つくらいひらいめいたなら、そのあと楽に20パターンくらい考えつくんじゃないかと思うじゃないですか。でも、結局あとで考えてみても最初の3パターン以外にまったく思いつかないんですよ(笑)
── まだそれだけではゲームにならない状態というわけですね。
林 そうなんです。データ起こしの作業をしていく中で、ぼくの中でアイデアがまだテストプレイにいくまでには消化できてないな、と思い始めるんです。そういう場合、それはまた他で使えるアイデアかもしれないので、一旦止めて寝かせておきます。
── ということは、その作業にとりかかった時点では、実際にはまだ形に仕上げられるまでに至っていなかった場合があるにしても、初段階ではとにかく走り出してみるわけですね。
林 とにかく走り出してみて、とりあえずデータに起こしてみるという感じですね。それでうまくデータ化できて、カードまで作ってしまえれば、ようやくテストプレイをすることができるんですが。そこまでいけたらボツになることはほぼないですね。
── 作り始める前から、いま作る作品がどのようなものになるか、ある程度おわかりですか。どれくらい想像ができているのでしょうか。
林 ぼくの作るゲームはどちらかというと、すべての情報がプレイヤーに見えているゲームが多いので、だいたい最初のイメージ通りに動きますね。数値のバランスなどはいろいろ調整しますけど、メインのメカニクスの動きはだいたい想像通りできています。
── 作ろうと決心させるゲームアイデアは、そうでないアイデアとどんな違いがあると思いますか。10個のアイデアがあるとして、テストキットを作ろうと思う1個と、残りの9個との違いは何でしょうか。
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