『創造的な習慣』川崎晋 後篇
カワサキファクトリーの川崎晋(かわさき・すすむ)さんは、構造的に非常に美しいシステマチックなアナログゲームを得意とし、長い創作歴の中でいつくも素晴らしい作品を発表されてきました。海外出版社からのリリースについても日本のアナログゲームシーンでは先駆けであり、いまもなお知的で刺激的な作品を生み出し続けるアナログゲームデザイナーです。
主な作品リスト
『Tenplus』『R-Eco』 『グラグラカンパニー』『カウントダウン』 『カルタゴの貿易商たち』 『ルールの達人』 『クイズいいセン行きまSHOW!』 『賭博英雄伝セブン』 『ダチョウサーカス』 『ギシンアンキノトウ』 『ローマの執政官』 『TRICK OF SPY』他多数
優れた作品を創作し続けているアナログゲームのデザイナーに対して、Saashi & Saashi が定型的な質問を用意し、それに回答してもらうという、このインタビュー企画『創造的な習慣〜アナログゲームデザイナーはいかにしてクリエイトするのか』。
数学的な思考と経験によって培われた揺るぎのない川崎さんの定見は、ゲームデザイナーを志す人にとって有用な言葉に満ちています。日常のありとあらゆるシーンをゲーム的なメカニズムとして解剖し再構築するその眼識には、すべてのデザイナーの刺激になりうるクリエイターとしての感性と情熱、そして凄みが含まれています。ロングインタビューを敢行してまとめた全記事を三分割し、後篇をここにお届けします。(前篇、中篇はこちら)
ディベロップ
── 数学ファンを自称されている川崎さんに、これをお聞きするのはお答えが予想できるのですが、ゲームを作り始める時に数学的な計算を立てて作っていますか。
川崎 数学的に計算はしますね。プレイヤー人数に対して、1人当たりこれぐらいのカード枚数が良いとか、マス目の数はこれくらいが良いとか、駒の数がボードのマスの中で占める面積が何%くらいだと、ちょうどプレイヤー同士がかち合うだろう、とかそういったことは計算して考えますね。
── 何%くらいというのは、数字としてすぐに表すのですか。
川崎 たとえば点数についても、1個目は効率が50%で、2個目は66.6%で、次が75%、その次が100%、120%、という感じで曲線で捉えて考えます。曲線の「見た目」もあるんですよ。ここで急にガッと上がるから、「みんなここまでは目指すだろう」というところを考えて計算をしています。
── とりあえずテストキットを作ってみて、それを回してから調整すると言うよりも、最初の段階である程度の数学的な計算をされてから作るという感じなのですね。
川崎 ぼくの中では計算済みのことを、テストプレイの場ではプレイヤーたちの感覚で遊んでもらって、この部分は増やそうとか減らそうとか、調整をしていくんですが、最初の基準というのはあくまで自分の計算です。
── 川崎さんの中でゲームメカニクスを考える、作り出す作業は、どのようにして始まるのでしょうか。
川崎 メカニクスの元になるモノから始まります。たとえばカードなら、そのカードの扱い方や見せ方から考えるんです。「どんな扱い方があるかな?」と。
── ゲームの中でのカードの扱いについて考えるところが始まりになるのですか。
川崎 そうです。場にカードがすべて表向きに並んでいるのか、山札として重ねてあるところから1枚引くのか、他のプレイヤーの手札からもらうのか、なるべくいろんなパターンを考えていきます。それから「こういうパターンの場合はプレイヤーはどんな考えでプレイすることになるのか?」とあらゆる方面から考えていくわけです。最初から「このアイデアが良いだろう」とポンと思いつく場合も、もちろんあるんですけど。そういう感じでパターンを考えていって、あとから虱(しらみ)潰しにひとつひとつ洗い出して考えていくことも多いです。
── ひとつひとつ洗い出す、というのは頭の中で考えていくということなのですか。
川崎 そのメカニクスの場合、プレイヤーたちがどう動くことになるのか。それをある程度自分の頭の中で想定できる状態までは考えるんです。でも同時に、自分の想定通りにならない余地をどこかに残しておくことも大事だとは思っています。完全に「想定通り」に進ませるだけではなくて、ある程度はプレイヤーの個性によって変わった展開も起こりえるような余地を残しつつ、予想はつくけれど、その予想を裏切られることもある展開。その程よいバランスのところを狙っていきたいので。
── 余地を残しておくというお話に関連した質問ですが。作っているゲームが、最初のコンセプトと違ってきた場合はそのまま進めますか。あるいは元のコンセプトに一旦立ち返りますか。
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