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猫エッセイ

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猫についてのエッセイです。
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#短歌

その猫は全部を生きて死んだので悲しいけれど苦しくはない

2年前の猫の日に亡くなった猫の話です。
苦しくない話だけど、苦手な方は読まないで。

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 以前、こんな短歌を作ったことがある。

《衰えた猫はやっぱり撮れなくてアラーキーにはなれそうもない》

 これまで何匹も猫を看取ってきたけれど、「穏やかな最後」なんて嘘だと思っていた。看取った猫はみな辛そうだった。その辛そうな猫に、何もしてあげられないことも辛いのだ。「死」とはそういうものだ、と思っ

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鳴いてばかりいる

鳴いてばかりいる

全然覚えていないエッセイがEvernoteから出てきた。文中に「きり(7歳・オス)」とあるから8年前に書いたことがわかる。

猫と言葉が通じればいいのに、と思うことは少ない。

猫は「わかっているのか、わかっていないのか、よくわからない」具合がちょうどいいのだと思う。
それに、猫の言葉なんて、多分「ごはんまだー?」か「ドア開けてー」か「ウンチ出たよー」のうちのどれかだ。
そしてそのどれかに対してこ

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はなびらのかたちの耳はその猫のそばのやさしい誰かのしるし

最初に耳の先が欠けている猫を見たのは、いつ頃だっただろうか。

どこかの公園で見かけた黒猫だったような記憶がある。その頃はまだ何も知らなくて「猫同士のケンカで耳が切れてしまったのだろうか?」なんて思っていた。「それにしてはきれいに欠けているな」とは思わなかったし、その公園にいる他の猫も同じように耳の先が欠けていることにも気づいていなかった。

「不幸な猫が増えないように、のら猫に去勢避妊手術を施し

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猫といて増えていくもの

猫と暮らすと、あきらめることも多い。

ソファーも、花瓶も、家の匂いも、綿ぼこりも、腕の引っかき傷も、壁紙も、長い旅行も、だいたいあきらめることになる。

「あきらめる」というとネガティブな感じだけど、全然そんなことはない。むしろ、おおらかになる感じ。

だから、苦笑いしながらいっぱいあきらめてほしい。

あきらめるって案外すてきなことなのだ。

猫といて増えていくのは笑い声、キズ、綿ぼこり、あと

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運命の猫との出会いはプライスレス 値札は付いているはずがない

世界は、変わる。

日々生活をしていると気づけないほど徐々に。でも振り返ってみると、結構劇的に変わっていたりするものだ。
「あの頃は、あんなことが当たり前だったけど、今ではちょっと考えられないな」ということは、意外とある。
例えば、喫煙マナーとか、体罰とか、個人情報の扱いとか……。ほんの二十年くらい前と今とではまったく変わっている。
大人を何十年かやると、そのことに気づける。そう、世界は案外変わる

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死のないところに立たない煙

死のないところに立たない煙

※2010年の年末に書いた文章です。

よく皿が割れた年だった。

年の前半からバタバタと忙しかった。
家を離れて、単身で大阪や広島に長期出張していた時期も多かった。

8月のお盆辺りだっただろうか。
妻に「今年は仕事しかしてない年だな……。年末に今年の10大ニュースを振り返ったら、『僕おも※』の公開収録が間違いなく1位だよ」と話すと、妻は「いいじゃん、公開収録は大ニュースだよ!」と笑いながら答え

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猫からの手紙

猫からの手紙

見て見ないふりをしてたら死んでいた猫じゃなければ見なかったかな(連作「ネコノイル」より)

猫からの手紙が届いたのは、2006年9月2日土曜日の朝だった。

僕はまだベッドで起きるでも、眠るでもなくうだうだしていた。

先に起きて、なつめ(オス猫)を病院へ連れていったはずの妻が、数分で戻ってきた。(なつめには持病があり、週1回通院していた)

何事かと思い、玄関に行ってみる。

「どうしたの?」と

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福は内

福は内

ノラだった頃じゃできない顔で寝て 油断とスキしかない猫でいて(短歌初出『ネコまる』辰巳出版)

屋外で冬を過ごした経験がある猫を、必要以上に甘やかしてしまう。

2003年2月2日、僕らは、まだ大阪に住んでいた。
夕方、妻が買い物から帰ってくるなり「猫が鳴いているから、一緒に捕まえてほしい」と言ってきた。

妻の話によると、一週間ほど前から同じ場所で大きな声で鳴いているという。

初日に確認したと

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わかっているのかいないのか

わかっているのかいないのか

なにもかも見透かした目で僕を見る猫の前ではうまく笑える猫の魅力は、わかっているのか、わかっていないのか、わからないところだ。

「猫は、自分の名前を─A:わかっている B:わかっていない」というアンケートを採ったことがある。母数も少なく、これで何かがわかるとは思わないけれど、結果はAが67%、Bが33%だった。ちなみに僕は断然B派だ。「自分に向けて何か言ってるな」くらいはわかるけれど、名前までは認

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知らぬが仏

知らぬが仏

猫が増え消臭グッズも増え続け普通の匂いがもうわからない猫を飼っていて「とほほ……」と思う心のベストテン第1位は、「におい」だ。

結婚3年目に成り行きで田舎に一戸建てを購入した。当初は「無印良品的な」とか「シンプルでロハスでカンファタブルな」とか、そんな野望が確かにあった。猫は4匹しかいなかったし、まだ夢見がちな頃のことだから許してほしい。(そして、4匹を「しか」とか書いている時点で結構普通じゃな

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猫と寝床

猫と寝床

右に妻 左には壁 胸に猫 枕元に猫 股ぐらに猫最近、朝晩そこそこ冷えるので、毛布を出した。

寒くなってくると、これまで床や猫タワーで寝ていた寝室組の猫が、ベッドに集まってくる。

寝室組は現在5匹。それもみな重さも幅もある立派なデブ猫である。

要するに、狭い。毎年、寒くなってくると、寝場所の確保が熾烈になる。我が家の基本ルールは「早い者勝ち」。

少し夜更かしをして寝室に行くと、「寝場所が……

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purr

purr

ひざの猫とヱビスを流し込む僕がなかよくのどを鳴らす食卓猫がのどを鳴らすことを、英語で「purr」というらしい。

発音は多分「パー」だ。

少なくとも僕はそう発音しているけれど、確かではない。

イスに座ると、猫はすかさずひざに乗り、丸くなり、のどを鳴らし、いかにも質のよさそうな眠りに落ちていく。この一連の流れはあくまでも淀みなく、心地いい。

この世で一番好きな音は、猫が鳴らすのどの音だ。(「こ

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かすがいだらけ

かすがいだらけ

おたがいに猫優先のこの家に子はないけれどかすがいだらけ20代後半から数年間、社長と2人きりという環境で働いていた。1日中狭い事務所で2人、パソコンに向かって黙々と仕事をしていた。
社長の机と僕の机は向かい合わせでも横並びでもなく、なぜか前後に並んでいて、しかも社長の机は僕の後ろにあった。
社長が背後で「あれ……?」とつぶやけば、それは確実に僕が何かをしでかしたということになる。
背中全体が耳になっ

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いちの一歩

1階に降りていけない猫といて きょうは仕事をサボる気がする我が家には幻の猫がいる。

臆病で2階の寝室だけを行動範囲としているため、僕と妻以外には、ほとんど姿を見せない猫。

それが「いち」(12歳/メス)だ。

いちは寂しがりやで、夜、僕たちが1階に長居すると「まだー? はやく2階に上がってきてよー」と言っているかのように鳴き続ける。

仕方なく僕あるいは妻が、まだ眠くもないのに2階の寝室に

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