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鳴いてばかりいる

全然覚えていないエッセイがEvernoteから出てきた。文中に「きり(7歳・オス)」とあるから8年前に書いたことがわかる。

猫と言葉が通じればいいのに、と思うことは少ない。

猫は「わかっているのか、わかっていないのか、よくわからない」具合がちょうどいいのだと思う。
それに、猫の言葉なんて、多分「ごはんまだー?」か「ドア開けてー」か「ウンチ出たよー」のうちのどれかだ。
そしてそのどれかに対してこちらが何かするまで、ひたすら鳴き続けるのが、猫だ。
あのあきらめない姿勢は、鳴き声だからいいけれど、人の言葉で聞こえちゃうと、結構なダメージなのではないか。
猫同士の会話とかわかっちゃうと、もうなんか立ち直れなくなるような噂をされているに違いない。

きょうは自宅で仕事をしていた。慣れない作業で、あわあわしながらなんとかこなしていた。
我が家の猫の食事は朝と夜の2回で、朝は6時ごろ、夜は18時ごろと決まっている、というか、決まっていた。
決まっていたはずなのに、きょうなんてきり(7歳・オス)が鳴き始めたのは、15時18分だ。15時18分って。思わず2回書いてしまった。
きりは、それはもう大きな声で鳴く。「メェー、メェー」と鳴く。ひたすら鳴く。足元で鳴く。
きりのその声に反応して、今度は一階でしろち(8歳・オス)が鳴き始める。「あおお、あおお」と鳴く。
そして、寝室のしぐれ(11歳・メス)が「え、もうごはんだっけ?」とばかりに鳴く。「にぃ、にぃ」と鳴く。まだだよ!
「まだ4時にもなってないじゃん! ま、だ、だ、か、ら! まーだ!」と、こちらも大人げなく(……というか人間げなく?)怒鳴る。
午後4時前の、狂想曲。これが言葉で聞こえたら、なんて考えると、苦しくなってくる。

結局、16時08分に「あー、もうわかったよ!」と作業を中断して、仕事部屋から台所へ向かう。
嬉々として僕を先導するきり、しぐれ、そしていつの間にか加わっているわらび(7歳・オス)。
一階で待ち構えているしろちとうみ(8歳・メス)。
早過ぎる夕食。敗北感である。

猫の言葉は「猫の体調が悪いとき」と「迷子の子猫に家や名前を聞くとき」だけ、わかればいい。
あとはわからないままでいい。そういう距離がいい。

「この家はどうだ?」と猫に聞いてみる 何も言わないのをいいことに

そんなそんな。